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第42話

​「……気持ち、いいか?」  崎田は、ほとんど懇願するような、押し殺した声で尋ねた。  問われた萩山は、一度目以上に押し寄せてくる快感で呼吸を忘れていた。  深く突き込まれるたびに、崎田の熱が芯まで染み渡る。頭では、快楽に溺れてはいけないと警鐘が鳴っているのに、その熱が全ての思考を焼き尽くしていく。  崎田の力強い動きに合わせて、シーツが微かに軋んだ。  萩山は、首輪の存在を、その冷たさを、今だけは完全に忘れていた。 「……っ、ん、ああ……っ」  漏れ出る声は、完全に性の悦びを感じているΩのそれだった。。  その声を聞いた瞬間、崎田の顔に支配的な悦びの色が浮かぶ。 「その声……もっと、聞かせて?」  囁きながら、崎田は腰を深く落とした。獣めいた衝動に突き動かされるように、そこからは一気に速度を上げる。  激しい往復運動が、互いの快感を無限に引き上げ、二人の間に酸素が足りなくなる。  何度も深く突かれるうちに、萩山の意識は遠のき、もう自分が何者なのかもわからなくなった。ただ目の前のαに、この熱に身を任せたい、もっと求めたいという本能だけが残る。 「さき、た……っ、ああ、まって……!」 「待たない。由樹が、もっとって言ったんだ」  崎田の声はもはや理性を失っていた。激しく打ち付けられるたび、彼は萩山の首元に顔を埋める。  萩山のフェロモンが、Ωの最も魅惑的な香りを放ち、崎田の理性を貪っていく。  首輪があるにも関わらず、番の証を刻む場所がじんじんと熱を持っていた。  皮膚の下で、互いの本能が噛み合おうとしている。  まるで本当に噛み合ってしまったかのように、萩山は目の前が白くなった。  その直後、崎田の喉からも低く唸るような声が漏れ、熱い精がΩの身体の奥深くに注ぎ込まれるようにスキンにぶつかった。  数拍遅れて、萩山の身体もびくりと大きく跳ね、快楽の余韻に身を震わせる。崎田は、名残惜しむように萩山の内側でしばらく留まっていた。  鼓動が、一つに重なり合う。  萩山は、満たされた安堵と、抗いがたい敗北感に苛まれていた。  ――結局、自分はΩとして、崎田のαとしての熱に、屈してしまった。  そう思ったとき、首の後ろに触れていた崎田の手が、わずかに移動し、首輪の金具を撫でた。 「……これがあるから、今は、安心か?」  まるで、萩山の心の奥底を見透かすような問いだった。  その言葉に、萩山は何も答えられなかった。  ただ、彼の胸元に顔を埋め、震える指先で、崎田の首筋をぎゅっと掴んだ。  安心なんかじゃない。この鉄の冷たさが、余計に、噛まれたいと願う自分を、炙り出しているだけなのに。

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