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第53話

 萩山と崎田が互いの陰茎を取り出した時には、もう既に二人ともゆるりと硬度を持っていた。  荒い呼吸を何度も繰り返したせいで、車内の酸素が少なくなっているような錯覚に陥りながら、萩山は必死に崎田自身を扱き、崎田もそれに応えるように手を動かした。  フェロモンなんてお互い出ていないはずなのに、頭の中がぼんやりと溶けていき、それに連動するように先走りが先端から溢れ始めた。  二人の動きは、もう互いを慰めるという範囲を軽く越えていた。  触れるたびに、どちらかが息を呑み、少しの間を置けば熱が揺れる。  求めるように指が絡み、熱を手のひらでしっかりと感じ取る。  布越しの擦れだけでは誤魔化せないほど、萩山の身体は敏感に跳ねた。 「……やば……由樹、それ……っ」  崎田が途切れ途切れに洩らした声は、もはや自制が残っているとは思えないほど低い。  萩山は何も返せなかった。返したら、きっと声が震える。  代わりに、握る力だけ強くして応える。その瞬間、崎田の呼吸が一段深く落ちた。  まるでその反応が引き金になったように、手の動きがゆっくりと、しかし遠慮なく変わる。  触れられる角度が変わるたび、萩山の腰が浮きかける。逃げたくても、逃げられない……逃げたくない。  そのどちらともつかない震えが、太ももの内側まで伝わる。 「……由樹、こっち見て」 「む、り……っ」 「見ないと……俺、我慢できない」  その言葉の意味を深く考える前に、顎をそっと掴まれて顔を上げさせられた。  目が合った瞬間、萩山の呼吸が止まる。  視線だけで全身が引き寄せられる。貪るように押しつけられた唇がいやに熱い。  繋がってもいないのに、声も触れ方も、すべてが満たされすぎている。  「……そんな顔、もう……っ」  崎田の声が震える。  萩山の動きと、身体の奥から零れた熱に呼応するように。  たまらず、萩山の指先が崎田が自分に触れていない方の手首に縋りつく。  それだけで、二人の動きが揃っていった。  呼吸も、熱も、揺れも。  視線が絡む。  それだけで、萩山の奥がまたひくりと脈打つ。 「……由樹……もう……っ」 「っ……ひ……」  ひどく甘い息が混ざって、車内の空気が一気に熱を孕んだ。  動きが急に揃ったり、ばらついたり、焦ったり。  それでも手だけは離れなかった。  最後は、どちらが先かわからないまま息がひゅっと高く震え、身体が同時に跳ねた。  勢いよく出た精液で濡れた指先の感触だけが、静かに二人を繋ぎとめていた。

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