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第56話
ばたばたと風呂に入って、二階に上がり自室のベッドにぼふんと転がる。
崎田と恋人同士になれたことと、最後に交わした甘いキスが萩山の頭のほとんどを占めていてどうにも落ち着かない。
恋人同士になったということは、いずれは番にならなきゃいけないんだろうか――
ふと疑問が浮かんだが、今の萩山にはそれを考えるほどの余裕はなかった。
『家、着いた?』
メッセージを送って数秒で、崎田からの着信があり心臓が大きく跳ね上がる。
震える指で緑色の部分をタップすると、上着を脱いでいるらしいごそごそ音と崎田の優しい声がスピーカー越しに聞こえてきた。
「ちょっと買い物してたから、今帰ったところ。由樹は?」
「俺はもう風呂入って寝るだけ」
「そっか。明日も早いもんな」
ちょっとごめんな、と前置きしたあとで買い物袋をがさごそ言わせている音と、冷蔵庫を何度も開け閉めしている音が耳に飛び込む。
このあたりで遅くまでやっているスーパーといったら、隣町との境にあるあそこしかない。
一度隣町のコンビニに行って、自分を送り届けたあとにもう一度買い物に向かわせてしまったのを申し訳なく萩山が思っていると、それを察したらしい崎田が笑いながら話しかけてきた。
「いや、帰る途中で家に何もないこと思い出してな。由樹は悪くないから」
「ならいいんだけど……」
「そうだ。週末空いてるか?もし由樹さえよかったら、ちょっと遠出しよう」
「行きたい!」
子供のように即答してしまった自分自身を少し恥ずかしく思いつつも、崎田が嬉しそうに「週末楽しみだな」と言ってくれたことに萩山自身も嬉しくなり、そうして十数分後には眠りについた。
途中、不思議な夢を見た。
子供の頃の萩山と崎田が「番ごっこ」と称して崎田が萩山のうなじに軽く噛みつく遊びをする夢。
噛まれた途端に軽い電流のようなものが流れ、萩山の意識が失われると同時に現実の萩山は目を覚ます。
「なんだったんだ、今の……」
深層心理では番になりたいのかもしれない、と苦笑しながら萩山は仕事の準備に取り掛かるのだった。
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