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第58話
午前とは打って変わって午後は慌ただしく、多少残業をしてから帰ることになった。
帰宅する前にスマホを見ると、崎田から連絡があった。
『最近色々と危ないみたいだから、気をつけて帰れよ』
何故それを知っているのかと聞きたい気持ちに襲われたが、田舎なので回覧板などで既に情報は回っているのだろう。
そう自分に言い聞かせた萩山は車に乗り込むと、『ありがとう、気をつける』とだけ返信して、ひやりとしたハンドルを握って帰路についた。
帰宅すると既に食事は終わっており、リビングで母と父がバラエティ番組を見ていた。
ただいま、と声をかけてから母が置いておいてくれたラップをかけられた食器をレンジに入れてスイッチを入れ、鍋に入っている味噌汁を温めるために火をかける。
ご飯をよそっている間に電子音が流れ、温まった生姜焼きを取り出すと、母が声をかけてきた。
「昨日隣町で不審者が出たって回覧板が回ってきたわよ。あなたも一応気をつけなさいね」
「う、うん」
含みのある言い方に疑問を覚えつつも、温まった味噌汁をお椀によそって食事を始める。
リビングとダイニングが同じ空間にあるため、テレビ番組の音声がよく聞こえるはずなのに、今日は妙に遠く感じた。
萩山が夕飯を食べ終わったのに気づいた母が、食器は洗っておくから先にお風呂入っちゃいなさい、と声をかけてくる。
それに頷いた萩山は、真っ直ぐ風呂場へと向かう。
ワイシャツを脱いだ時にそういえば崎田からの返事を見てないなとスマホを見ると『帰ったら連絡くれよな』とだけ残されていてはっとした。
『ごめん、すぐご飯食べてた。もう帰ってるよ』
すぐに既読がついて、吹き出しが下に表示される。
『よかった。明日も早いのか?頑張ってな』
『うん、ありがとう。おやすみ』
少しでも電話をしたいという気持ちもあったが、今電話をするとあれこれ聞いてしまいそうな自分がいることに気づき、萩山は深呼吸をする。
服を全て脱いでシャワーを頭から浴びると、まだ温まっていない冷たい水が降り注いだが、今の自分にはそれでちょうどいいような気持ちになった。
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