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第59話
湯に浸かってぼんやりしていると、今日のことが色々と頭に浮かんでは消えていく。
昨日の夜の巡回、浮かれている自分自身、崎田のこと――
考えても仕方がないとは思っているが、どうにも頭からこびりついて離れない。
それに、夢で見た「番ごっこ」のことも気になる。あれがもし現実の記憶であるのなら、崎田だけが自分のフェロモンに反応できたのも説明がついてしまう。
まさかそんな、ありえないと思いつつも考えることをやめられなかった。
のぼせかけながら風呂から上がり、自室に上がってベッドに横たわる。
やっぱり、声が聞きたい。
アプリを立ち上げて発信ボタンを押そうか押すまいか迷っていたら、手が滑って発信ボタンを押してしまった。
数コールの後、優しげな崎田の声がスマートフォンのスピーカーから聞こえてきた。
「由樹、どうした?」
「ごめん。遼の声……聞きたくなって」
反射的に謝罪の言葉を述べた萩山に、崎田はくすくすと笑ってから答える。
「謝るなって。俺も声、聞きたかったし」
「そっか、よかった。そういえば遼もお疲れ様」
「ん?何が?」
「仕事。してたんじゃないのか?」
しまったと思いつつも止められなかった言葉に若干冷や汗をかきながら萩山が言うと。ああ、と前置きしてから崎田が話しはじめる。
「俺、こっち来てからフリーで仕事してるから調整効くしそんなに無理はしてないかな」
「そっか、そうなんだ。なんかかっこいいな……それ」
「はは、ありがと」
なんとか普通の会話が出来た安心感と、崎田もちゃんと仕事をしているらしいことに何故かホッとした萩山は、気になっていたことを口にした。
「そういえば、うちの職場内で隣町で巡回があったって話聞いたけど、崎田も気をつけろよ」
「ん、今日俺もアパートの人から聞いた。萩山の方が気をつけたほうがいいよ」
「なんで?」
「可愛いから」
「ばっ、か……俺は、真面目に心配して……」
「俺も真面目だよ?」
確かに冗談を言っている感じではないのを察した萩山は、この話題を切り上げてから他愛のない会話をして、幸せな気持ちで眠りにつくのだった。
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