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第63話
出勤後に萩山が昨日のことを詫びると、上司や同僚に身体は大丈夫なのかと代わる代わる聞かれた。
その度に大丈夫です、と答えながら仕事を続ける。確かに体調は良くなっていたし、今は仕事をしていたほうが気が紛れると感じた萩山はいつも以上に仕事に没頭した。
家に着いてから食事をして、風呂に入った後でようやくスマートフォンの画面をつける。
すると、昼過ぎ頃に崎田からのメッセージが入っていた事に今更気づいた。
『体調が大丈夫かどうかだけ教えてくれると嬉しい』
たったそれだけの文章に、心がつい緩んでしまうのを感じながら返信が遅れたことを詫びる文章と、もう大丈夫ということを伝えて画面を消す。
すぐにスマートフォンが震えて、通知欄に『よかった、早く休めよ』と表示されたのを見てからもう一度画面を暗転させた。
一つずつ整理しようと思い、まずは「番ごっこ」のことを思い出そうとする。しかし、夢で見た以上の事はどうしても記憶になくて、眉間に皺を寄せるだけとなった。
もし「番ごっこ」のせいで崎田にしかフェロモンが効かず、彼がいないと強いヒートが起こらないような体質になっていたのであれば、それはもう本物の番に近いのではないだろうか。
そう思いインターネットで様々調べてみたが、当然それらしい文章は見つからずため息をついた。
運命の番というものもあるが、それは健康なαとΩの話であり、崎田が現れるまではβと変わりなく過ごせた自分は対象外だとも思った萩山は、無意味に何かしらの文字列を眺めて過ごした。
そういえば、このほぼβと変わらない体質のことも何故か崎田は知っていたっけ……と萩山が考えたところで妙な眠気が襲ってきて、意識が暗転した。
その後慌ただしく日々が過ぎていき、あっという間に約束の日の前日になってしまった。崎田からメッセージはあれ以来来ておらず、萩山からも送っていない。
退勤後、明日のことを聞くためにメッセージを送ると、すぐに返事が来た。
『午前からで構わないよ。明日は迎えに行くから』
確かに崎田のアパートに来客用の駐車場らしきものはないし、彼の自宅付近の立地だと路上に駐車するのもなんとなく気が引ける。
その提案を有り難く受け入れた萩山は、崎田とどうしたいのか、彼に何を聞きたいのかが未だに固まりきっていないことを不安に思いつつも、顔を見たらどうにかなるだろうという謎の安心感もあった。
明日はよろしくな、と送ってからベッドに身体を沈み込ませると、妙に目が冴えてなかなか寝付けなかった。
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