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別荘⑹
――翌日の午後。
「片桐君、先に出とくよ〜」
1泊2日を過ごした別荘とは、名残惜しいけど今日でお別れだ。
昨夜はあのあと、2人でまたお祭りの会場まで戻って、仲良く打ち上げ花火を見て楽しんだ。
ピアノの曲は、流石にこの短期間で習得することはできなかったけど、でもいつか、彼に披露できるといいな。
あとはほぼ、えっちしてた気がするな…。
玄関のドアを開け外に出ると、外側のドアノブに紙の手提げ袋が引っ提げられているのを見つける。
あれ?何だろうこれ…。
「星七さん、どうしました?」
後から荷物を手に出てきた片桐君が、立ち止まる俺を見て声をかけてくる。
「これ、玄関のドアにかけられてたよ」
片桐君に少々重めの紙袋を手渡す。
「中、何が入ってるの?」
聞くや否や、片桐君がスっと紙袋の中から品を取り出す。出てきたのは、薄ピンク色でなんだか高級そうなワインだった。
ていうか、今ちらっと見えたけど、アルコール度数10%…っ!?
ワイン飲んだことないから知らなかったけど、度数高っ!
片桐君は、無言でワインを紙袋に戻す。
「差出人って、誰?」
首を傾げて、彼に尋ねたとき。
片桐君の口元が、一瞬柔らかくなっているように見えた。
「さあ。誰ですかね」
それ以上特に何も喋らないまま、片桐君がその紙袋も手に、車に向かって歩いていく。
え、誰からのものか、分からないってこと…?
まさか、彼に想いを寄せてる誰かが、良さげなワインをプレゼントした?
確かに、彼ならそういうの全然ありえそうだけど……
でも、彼がそれであんな顔をするとはあまり思えない。
じゃあ、一体誰なんだろ。
仮に、彼の知っている人だとして。
高そうな品物を贈れる人、この近くの別荘に来ている人……?
――あ。
そのとき、パッと頭に浮かんだ人物に、俺は驚きを隠せないまま、車に乗り込む彼に目をやる。
(もしかして、………“玲司さん?”)
もし、もしもそうなら、こんなに嬉しいことはない。
俺は隣で、普段通りの表情をした彼の横顔を見つめ、堪えきれない喜びで口角を上げる。
少しずつ、ゆっくりと、静かに。
彼らの距離も、近づいているのかも――しれない。
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