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第4話

「!」  腕を伸ばされ、危うく悲鳴を上げそうになった。殴られる、と本能的に身を竦ませる。しかし神崎の手は、拳を作るのではなく、丁寧に整えられた宮原の髪を鷲掴んでいた。 「な、ッ……!?」  そのまま強引に、鏡へ身体を向けさせられる。髪をきつく引かれ、痛みに息を詰める宮原の視界に、今の自分の姿が映し出される。両手首を罪人のように括られ、恐怖に引き攣った顔。普段の隙のない完璧な姿など見る影もない。  乱れた自分を直視できず、宮原は反射的に顔を背けた。 「俺が聞きたいのはそんな台詞じゃない」  髪から離れた神崎の手が、青ざめてすらいる宮原の頬に触れた。熱い指に優しく撫でられながら、宮原はきつく瞳を閉じ、頭を打ち振った。 「もう何も考えるな」  乾いた言葉と共に、宮原の両目を塞ぐように何かが巻き付いた。瞼に触れる滑らかで冷たい感触。自分のネクタイだ、と気づいた時には、宮原の視界は完全に閉ざされている。薄く開いた宮原の唇から絶望の吐息が零れた。  次に頬に触れたのが唇だと、触れる吐息で気づく。 「俺の声と指だけ、感じてろ」  乾いた口調に、ぞわり、と総毛立つ。全身を強張らせる宮原を宥めるように、熱い掌が腿と尻を撫で上げる。背後に重なる体温をひどく鮮やかに感じるのは、視界を塞がれている所為か。ネクタイ越しの、深い深い葡萄酒色の闇。 「ゃめ、っ……」  もがくように無意識に手が上がる。指先に触れたもの――滑らかで冷たい鏡に、縋るように身を傾がせる。逃げ場所などもうどこにもないと知っているのに。 「ッ!」  無遠慮な掌がベストの下へ潜り込み、シャツ越しにざわりと胸を撫で上げた。その程度の刺激に、危うく声が漏れそうになる。 「待ちかねてるな、あんたのココは」 「…っ……!」  シャツの上から突起を捻られ、懸命に歯を食い締める。言われなくても、神崎の指を悦び、胸の粒が固く形を成すのが嫌でも分かる。  今まで、こんなふうに服の上から嬲られたことなど一度もなかった。直接触れられるより、遥かに倒錯的で恥ずかしい。 「何で、…こ、んな、っ……ぁ、あッ…!」  ワイシャツの薄い生地の上から、指の腹で執拗に捏ねられ、高く声が零れてしまう。滑らかな生地にすら凌辱されているような錯覚が、宮原の五感をますます研ぎ澄ませる。  そして神崎は、宮原のその反応を手に取るように理解していた。シャツのボタンもスラックスのベルトも決して外そうとせず、服の上から宮原の全身を好き勝手に嬲り続ける。 「っ…く、ッ――ぁ・んッ…、!」  視界を塞がれている所為で、触覚が神崎の指の熱を勝手に貪欲に感じ取る。  熱く太い五指に好き勝手に乳首ばかりを弾き回され、誤魔化すこともできずびくびくと身体が跳ねてしまう。 「ん、ぁ…っ、そ、こ…、ゃめ、ッ…――!」  目隠しをされ、自由を奪われた身体は、いつもより遥かに敏感だった。薄く上質な生地に隔てられた刺激がひどくもどかしく、零れる声はいつか物欲しげな甘さを帯び始める。 「……勃ってるな」  不意に揶揄するような低い声で囁かれ、ネクタイに塞がれたままびくりと大きく瞳を瞠る。神崎の言うとおり、触れられもしていない性器は、完全に勃起していた。  血が沸騰したように全身が熱くなる。宮原にできるのは、ただ首を左右に振ることだけだった。 「いつもよりずっと反応が良くないか? 実は縛られたかったか」 「! ふ、ざけ、っ、――ッあっ……!」  否定したいのに、シャツの上からきつく乳首を捏ねられ、高く声が零れる。スラックスの奥で、勃起した自身が卑猥に濡れていく。 「ん…っ、ぅ、…ぁッ、…ンんっ――、ぁ・あっ…」  ついに、宮原は喘ぎ声を堪えることもできなくなった。  もどかしい。布一枚隔てているだけなのに、そのもどかしさが逆に快感を増幅させた。尻を揉まれれば、つい腰をひくつかせてしまう。乳首を擽られれば、その指に押し付けるように自ら胸を突き出してしまう。 「おいおい、堪え性がないな?」  不意に耳朶に注がれる、神崎の声。それだけで腰が砕け、スラックスの奥で新たな熱がとろりと溢れ落ちる。  そのまま耳朶に吸い付かれ、耳殻をねっとりと舐め上げられる。卑猥な水音に聴覚すら犯され、逃れるように頭を打ち振る。背筋に走る甘い戦慄を堪え、括られた両手で鏡に空しく縋り付いた。 「ぁ、ふ…ッ、ぅ、ァ、あぁ…っ、 ――…んん…ッ!」  熱い掌と指先が好き放題に身体中を撫で回す。果ての見えないもどかしい熱ばかりが身の裡に満ち、宮原の唇から零れるのは、意味をなさない喘ぎ声ばかりだった。 「ずいぶん悦さそうだ」 「っ――!」  低い声。びくりと跳ねた腰の動きは、神崎の目に容易に見て取れるだろう。逃れるように、冷たい鏡に縋る手へ額を預けた。 「でも、まだ足りないな? イかせてほしいか?」  かっと頬が熱くなる。見抜かれている羞恥を、口惜しさが凌駕した。 「誰が…、っ!」  ふ、と笑う気配が耳朶に触れる。 「いいな。そういう活きのいい反応が見たかった」 「!」  腰だけでなく全身が跳ね上がった。  背後から回された神崎の手が、スラックスの硬い生地の上から、屹立した熱を包んでいた。 「触るなッ……!」 「可哀想なことを言う。こんなにしておいて、放っておくのか?」  後ろにぴったりと体温を重ねられた態勢では、抵抗など知れたものだ。神崎の大きな掌と長い指が、勝手知ったる手付きで性器を包み、繊細な動きで宮原を追い詰めていく。  宮原は懸命に喘ぎを喉の奥に押し込め、空しく頭を打ち振った。堪えようとしても、もう片方の掌に乳首を捏ねられれば、立つ力すら抜けそうになる。 「いい加減、素直になれ」  優しい囁きと共に、布越しに敏感な部分を捏ねられた。不意の強すぎる刺激に、びくりと宮原の身体が大きく撓る。もう限界だった。 「ッ、待、っ――ン、…ッ、ぁ、――ッ…!」  括られた両手が鏡にぶつかる。緊張した身体が小さく戦慄き、一瞬後に弛緩した。スラックスの奥で、溢れた熱が直ぐに冷え、不快な滑りを伝える。  ぐったりと、鏡に額を押し付けて喘ぐ宮原の耳元で、神崎が楽しそうに囁く。 「服を着たままイったのは初めてだな?」

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