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第3話 出会いとか一目惚れとか(side修平)

髪も肌も瞳も、全ての色素が薄い保先輩の真っ赤になる姿は、いつ見ても可愛い。 趣味だった柔道を大学でも続けたくて選んだ、普通の大学。 入学した大学では、四月いっぱい正門前にブースが設けられて、各部活やサークルが勧誘に力を入れていた。 俺は一直線に柔道部に入部届を出し、空手やアメフトなんかのしつこい誘いを断りながら、自販機で飲み物を買ってブース脇のベンチで一休みしていた。 「すっげーやる気ない勧誘だな、寝てるぜ」 「てか、あれ……男? だよな……??」 同じ新入生と思わしき男達が、そんな話をしながら俺の前を通過する。 フイと男達が歩いてきたほうを見れば、そこには文化系のサークルのブースが並んでおり、その中のひとつ、将棋サークルの机に突っ伏して寝ている人が目に入った。 そういえば、死んだじーちゃんとよく将棋を指したなと思いながら、俺はそのサラサラした髪の頂点(つむじ)をぼんやり見ていた。 やがてその寝ているらしい先輩の後ろから一人の男がやってきて、その先輩の頭をペシペシと叩いて起こす。 「おいこら。その顔使ってもっとしっかり勧誘しろって!」 「……何だよ、俺朝からずーっと一人でここにいんのに~」 その先輩がのそりと顔を上げ、眠そうに目を擦りながら顔をあげる。 ──胸を、撃たれた気がした。 化粧を施した新入生の女子大生は、可愛い。 バリバリに化粧の腕前をあげたOLも、綺麗だと思う。 一生懸命可愛くなる努力を重ねる女子高生だって、好ましい。 けど、俺がいいなと今まで思っていた彼女達の存在が完全に霞んでしまう程、その先輩はその一瞬で、俺の心を掴んで離さなかった。 一目惚れって、マジであるんだと、その時初めて知った。 ──落ち着け、俺。 速くなる鼓動を、深呼吸して落ち着かせる。 いくら相手が好みでも、多分……男。 それに、顔が好きなだけで、性格まで好きになれるとは思えない。 だから、考えるだけ不毛だ。 なのに、気付けば俺は、そのサークルの椅子に座っていた。 「掛け持ちって、出来ますか?」 その先輩は薄く茶色い瞳をまん丸くさせ、次に破顔した。 少しだけ八重歯が見える。 ──ヤバい、やっぱり可愛い。 「うんうん、勿論出来るよ。ここだけの話、掛け持ちしてない人のほうが少ないから。……あ、でも、サークルの様子とか知りたいよね? ひとまず見学する?」 俺が返事をする前に、「馬鹿お前、せっかくの入会希望者に何を言ってんだ!」と友達らしき男に耳打ちされ、「でも、掛け持ち出来ない部活やサークルもあるしさ。こんなに沢山見て回れるのも今だけなんだし、勿体ないじゃん」とその先輩は言葉を返した。

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