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第3話 ベビードール

りぃかは、ふと思った。 マルシェは定期的にあるし、マルシェに行く事に凛斗とは会って、体を重ねているから、そんなに気にもしなかったが、会わなければどうなるのだろうか、と。 そもそも、セフレと呼ぶには関わりが深すぎるし、恋愛かと言われれば、愛がそこにあるのかは疑問である。 「次のマルシェは……三日後、か。」 ふと、りぃかは考えていた。 もし、三日後のマルシェを直前でドタキャンしたとする。 大体凛斗と会うのは、マルシェの日と前日の夜から後の朝までだ。 二日三日会って、次のマルシェの相談をちょっとして、それ以外は連絡はとっていない。 りぃかは、今までは、それが自然かと思っていたが、自然ではないのかもしれないと思い始めていた。 そういえば、気付けば連絡をするのはいつも自分からだったかもしれない。 「もしも……。」 このまま連絡が途切れてしまうかもしれないと思うと、少しだけ胸がモヤッとした。 ただのセフレ相手に、そんなこと思う方が、どうかしているとりぃか自身も思う。 セフレはセフレらしく。 そもそも最初から、そんなこと望んでいなかったし、望むこともないと思っていた。 大体セフレらしくとはなんなのだろうか。 今まで通り干渉せず、我関せずというように飄々と振る舞い続けることだろうか。 都合の良い時だけ会って、都合のいいように交わる。 それ以上は望んでは行けないし、望むものではない。 「たかだか、マルシェ前後に会うだけの分際で。」 りぃかは、ペラりとカードを捲る。 気持ちが乱れているせいか、さっきからカードを落としたり、シャッフルしたりしていて、今日はカードを捲るには、上手くいかない日だと思っていた。 「カップの7、か……。」 まるで自分に言われているようで苦笑いしてしまった。 カップの7は、『高望みをしてはいけない』という意味があるカードである。 「はは……。」 まるで、今の自分に言われているような気がして、から笑いしか出なかった。 たまたま捲ったカードが『高望みをしている』と言う意味のカードというのがまた、現実をはっきり表しているように感じられた。 そもそも、自分が何故そんなに高望みをしてしまうのか、気にしてしまうのか訳が分からなかった。 三日後のマルシェをりぃかは無断欠勤した。 スペースにはお金を事前に払っていたし、一緒に参戦するような仲間も今回いなかったので、スペースに穴が空いたというだけだった。 ───りぃかは、凛斗にも連絡をしなかった。 既に駅前で待ち合わせ、と決めていたのもあって、事前連絡もなかった。 そして、凛斗が待ち合わせ場所に来たのか、自分を気にしたのかの行方も知ることは出来なかった。 約束を破ったあの日、凛斗からりぃかには連絡はなかった。 (まあ、そんなもんだよね。) りぃかは、自然とため息をついてしまっていた事に気付き、自分でも首を傾げた。 確かに凛斗との関わりは蜜ではあったし、行為も濃厚ではあった。 りぃか自身もそれは理解していた。 だが、凛斗がいなくてはならないと思うように、こんなにも凛斗のことを考えたことはなかった。 話は、マルシェの前日に遡る。 凛斗は、陽射しを避けるように、駅前の目立たない場所にいた。 重い荷物は、マルシェに出るときは毎度のことだ。 それに反してりぃかの荷物は自分に比べたら少ない。 だから、あの軽やかな足取りでふんわりとりぃかが近付いてくると、思わず目を細めたりしてしまっていたものだ。 マルシェは、大体、土日祝のどこかで参加する。 凛斗もりぃかも、マルシェに出るのは本業では無い。 本業に出来ればいいのだが、なかなか利益を出すということは難しい。 そこまで凛斗は考えて、時計を見た。 「……行くか。」 そうポツリと言うと、凛斗は陽射しの方に歩き出した。 約束の時間からは一時間が経っていた。 (つまり、そういうことだよな。) 今まで──関係を持ってから、りぃかは遅れてくることはなかった。 なんなら、何時に来ているのだろうかと毎度思うくらい、早く来て自分を待ってくれていた。 連絡手段は、ないわけではない。 SNSだって、DMだって、メッセージアプリだって繋がっている。 だが、お互いにマルシェの後からは決まって連絡を取ることはなかった。 ただ、遅れるだとか、行けそうにないなど、会っていない時間のことを伝えて来ないということは今まで無かったのだ。 凛斗は、微かに肩を落としていたことに、気付くこともなかった。 その代わり、缶コーヒーの缶が凹むぐらい、ぐっと握りしめていた。 凛斗は、今日どこに泊まるか、考えあぐねいていた。 いつもは、なんやかんや言いながら、凛斗とりぃかは、ラブホテルに滞在する。 ひとりで泊まることも不可能ではないが、何となく気が引けたし、りぃかがいないラブホテルに行く意味を見いだせなかった。 結局、凛斗は会場近くの安い、たまたま空いていたビジネスホテルに泊まった。 凛斗は、無意識にスマホを、りぃかからの連絡を待つように、いつもよりも多い回数を自分でも気が付かないうちに、チラチラ見ていた。 「明日のマルシェ一人か……。」 一人で出たことがない訳では無いが、チリチリと痛むような熱に、凛斗は無言で立ち上がるとシャワーを浴びに向かうのだった。 りぃかは、久しぶりに、マルシェの会場近くの駅に向かっていた。 凛斗とは、約束したわけでも連絡をとった訳でもない。 ただ、月の頭には今月はどのマルシェに出る、と言う会話をしているから、自ずと最寄り駅なんかは分かるのだ。 (いるとは、限らない。) なにせ、りぃかは先週のマルシェをすっぽかしている。 今更逢いに行くなんて、何を考えているのかと、酷く体を揺さぶられるかもしれない。 ただ、それでも─── (会いたいと思ってしまった。) そこの感情の名前は、まだ分からなかった。 でも、ただただ凛斗に会いたいと思ってしまった。 りぃかは、普段の飄々とした軽い足取りではなく、慎重な足取りで、駅前に立つ。 時間は、待ち合わせよりも30分早かった。 (いるわけ、ないか。) 一度約束をすっぽかしておいて、今日は来てくれるかもしれないと思うのは、虫が良すぎるだろう。 そんなこと、りぃかにも分かっていた。 ただ、それでも期待を寄せてきてしまった。 「ホント、自分勝手。」 「ホントですね、りぃか。」 その声に、思わずりぃかは、バッと顔を上げた。 いるとは、来るとは思わなかった。 「凛斗、さん。」 りぃかの、カラカラに乾いたような声が洩れた。 待っていた待ち人が来たとはいえ、りぃかは硬い表情を浮かべていた。 待ち人の凛斗は、笑っても怒ってもいないような淡々とした表情だったのも、その要因の一つだろう。 「こんにちは。」 凛斗は、りぃかの隣に並んだ。 ただ、マルシェに行く時のような大荷物は持ってきていなかった。 単調な挨拶をされると、どう返したらいいのか分からず小さくりぃかも、「こんにちは。」と返すしか出来なかった。 「……覚悟しておいて下さいね。」 「え?」 「悪い子には、お仕置が必要でしょ?」 りぃかは、驚いたように目を大きくすると、ゴクリと息を飲み込んだ。 なんとなくだが、りぃかは明日のマルシェには、参加出来ないように感じたからだ。 「悪い、子?」 「自覚は無いんですか?」 「っ──。」 自覚が無いのかと言われれば、きっと無断で来なかったことを指しているのだから、悪い子とも言えるかもしれないとりぃかも思う。 「確かに、そうとも言えるけど……。」 「なら、問題ないですね。」 そう言うと、凛斗は歩き出す。 問題ないかどうかは、今は決められないし、分からないではないかと思うが、りぃかは凛斗と会えた心が弾むような感覚を覚えていた。 それがあるから、凛斗の『お仕置』という言葉も甘んじて飲み込み、りぃかは凛斗のあとを着いていくのだった。 ふたりはいつも会う時は、事前にラブホテルに予約を入れている。 そんな事しなくても大丈夫だと思われるかもしれないが、マルシェは週末ばかりなこともあり、意外と部屋が埋まっているのだ。 男二人でラブホテルに入ることもあって、入り口でモタモタしたくない。 それで、凛斗とりぃかは自然と予約をするようになった。 部屋に入るまでの間、ふたりはひと言も交わさなかった。 コツコツ、コツ、コツと言うふたりのリズムが合ってない足音だけがする。 「りぃか。」 部屋に入る直前、先を歩いていた凛斗はポツリと零すようにりぃかの名前を呼んだ。 パッと顔を上げたりぃかは、凛斗と目が合う。 その瞬間に、りぃかは凛斗に腕を引かれ、部屋の中に乱暴に連れ込まれた。 部屋に入るのと同時にバランスを崩すりぃか。 それを受止めながら、凛斗はドアを閉め、自分の元にりぃかを引き寄せた。 「明日のマルシェ、出れるなんて思わないでくださいね。」 耳元で囁かれたソレに、りぃかはぞくりとした。 「はい、じゃあ、先にりぃかはシャワー浴びてきてくださいね。」 「う、うん。」 「なんですか?」 「いや、なんか、思ったより……。」 『優しかったから。』とりぃかは言いかけて止めた。 この状況を作り出したのは間違いなく自分なのだ。 りぃかは、言われた通り浴室に足を運ぶ。 それなりに、揃っているアメニティにここのホテルの高さを感じさせられた。 (凛斗さんが、予約するホテルはセンスがあるよね。) タオルもふかふか。 バスローブまで付いている。 値段は聞くことはお互いにないが、それなりにきちんとしたホテルを用意されると、その価値が自分にあると言われているようで、少し嬉しくなる。 (セフレのくせに。) それでも、それに素直に喜べないりぃかは、心の中で悪態を着いた。 りぃかのシャワーはザッと汗を流すだけでは終わらない。 それなりの、準備というものを要する。 その間、りぃかは凛斗が何をしているのかは知らない。 聞いたこともない。 ただ、上がってくれば、手持ち無沙汰そうにスマホを弄ったり、サービスの水を飲んだりしている。 (凛斗さん、何してるんだろ……。) りぃかは、準備をする時、自然と凛斗のことを考えてしまうようになっていた。 最初の頃は緊張もあって、それどころではなかったのが懐かしい。 「お仕置って何する気だろう……。」 凛斗の行動は、時々読めない時がある。 (明日のマルシェは行けないと思えと言われた……。) つまり、動けないほどにお仕置をするということだろうと、りぃかは理解した。 「でも、俺に執着してくれるんだ……。」 りぃかにとって、それが何よりも嬉しかった────。 「随分念入りでしたね。」 りぃかがバスローブを着て部屋に戻ると、こちらも見ず凛斗が言った。 「凛斗さん……。」 凛斗の隣に座るべきか、ベッドに腰を下ろすべきか。 りぃかが少し迷いを見せると、凛斗は立ち上がり、カバンから何かの袋を出すとベッドに投げた。 「それ着て。」 「これ、何?」 「いいから着てください。拒否はできないはずです。」 確かに凛斗の言う通り、ここに来たのは『お仕置』を受ける為だ。 それを考えると、拒否という選択肢は出てこないだろう。 「え、でも、これ……。」 中に入っていたのは、薄いパープルの色をしていて、ところどころに花が刺繍されている、薄い透ける布地のベビードールだった。 「お仕置ですよ?言うこと聞いてくださいね。」 「……分かった。」 凛斗の意思は曲がることがないらしい。 そもそも、お仕置だと言われれば、りぃかは反論する余地を持たせて貰えないのだと分かる。 りぃかは、するりとバスローブを凛斗の前で脱ぐと、一糸まとわぬ姿になる。 (逆に、今の格好の方が恥ずかしくないくらいだ。) 凛斗の視線が、真っ直ぐ向いてきているが、裸を見られることは慣れているし、違和感はなかった。 (何このベビードール、ちょっと可愛くてセンス悪くないのが変にムカつく……。) りぃかは、一度ベビードールを袋からだし、両手に持つと生唾を飲み込んだ。 シュル……シュルリ…… りぃかはもちろん無言だが、凛斗も無言でただただ見つめて、りぃかがベビードールに袖を通していくのを見ている。 「──これでいい?」 「よくないですよ。まだ、謝ってもらってないですし。」 「それは……。」 「ほら、こっち来てください。」 りぃかは思った。 強引に無理矢理されるよりも、心臓の鼓動の回数が多く、早く、呼吸が詰まる。 それは、自分の意思で凛斗の元に行くからなのだろうか、と。 りぃかは少し迷うようにしたものの、結局は下唇をかみ、ベビードールの裾を少し引っ張るようにしながら凛斗の前に立った。 「手、除けてください。」 そう言いながら、凛斗はスマホを取り出す。 「え?撮るの?」 「約束すっぽかすような人の言葉は残しておかないと信用出来ないんで。」 「普通の時に撮ればよかったじゃん!」 「それじゃ、お仕置にならないので。ほら、りぃかさん。座って上目遣いで言ってくださいね。」 りぃかは迷った。 ただ、凛斗は本気なんだろうとは思っていた。 冗談では、こういうことを言うタイプでもないし、そもそも冗談を言わない。 それでも、やらなければ、言わなければ、この恥ずかしいベビードール姿もそのままだろう。 りぃかは、黙って凛斗の前に両膝をつくと、チラッと凛斗を見た。 凛斗は、小さく頷きながら、ここに向かっていえとばかりにスマホを前にだす。 りぃかは、息を吸い込み心を決めた。 「や、約束破って、ごめんなさい……。」 「それだけ?」 「──凛斗さんの好きにしてください。」 「へえ。」 凛斗はスマホをテーブルに置くとりぃかの顎を掴んだ。 「好きにしていいんですね。」 「──勝手にして。」 りぃかは、恥ずかしさから視線を逸らし、微かに頬を赤らめながらボソリと言う。 凛斗はその言葉に微かに口元を緩めた。 「なら、好きにします。」 そう言うと、凛斗の顔がそのままりぃかに近づき、唇が、触れた。 「え?」 りぃかは驚いた様子で目を見開く。 何故ならふたりは、あんなに体を重ねていたのに、口付けだけはしたことがなかったのだ。 りぃかが、凛斗からの口付けに固まっていると、凛斗はりぃかの下唇を軽く噛んでから唇を離した。 「好きにしていいんでしたよね?」 「え、あ……、え?」 突然の事で、りぃかは意識が追いつか無かった。 あからさまに、今までは口付けをしてこなかったのに、と、りぃかの頭の中はぐるぐる思考が回っている。 そのりぃかの行動が、固まっているのを小さく笑みを浮かべて見つめては、りぃかの体を凛斗は持ち上げた。 「え、あ……。」 りぃかが戸惑いながらも、ジワジワと胸に湧き上がる熱を抑えきれず、甘えるように凛斗に抱きついた。 凛斗は、何も言わなかった。 代わりに、ベッドに下ろすと、そのまま押し倒して、りぃかの首筋に口付ける。 「ん……。」 りぃかの体がぶるりと震えた。 「似合ういますね……言われる方は納得しないだろうけど。」 「当たり、前……。」 「でも、りぃかはキス好きですね?」 そう言って、凛斗がりぃかの肩口に口付けると共に、膝でクイッとりぃか自身を押し上げると、ビクッと腰がはねた。 「キスしかしてないのに……勃ってるし。」 「んん、ちが……っ!」 「そんな声出して、なにが違うっていうんですか?」 「ふ、んんっ!いつもより、意地悪!」 「お仕置きですからね。」 そうだった、と思いりぃかは身を強張らせる。 「そんな緊張はしなくていいですけどね。」 「緊張というか、うーん……あっ!」 緊張もしているが、それよりも何を考えているのかわからない凛斗に少し慄いてしまっていた。 凛斗は、そのりぃかの緊張やら何やらある感情を、無視するようにベビードールの上から首元から鎖骨、肩へと、手をすべらせていく。 その手が触れている感覚を感じるだけで、りぃかは熱い吐息を漏らした。 人に触られるというのは、心地よく、ゾクゾクする。 「りぃか、そんなに触られたいですか?」 「え……は、ん……。」 「足、開いてるんですけど?」 バッと思わずりぃかは足を閉じようとしたものの、凛斗がそれを許さなかった。 片足をりぃかの足の間に挟む。 「ここ触ってほしかったんですよね?」 そう、凛斗が言うと、太ももの内側をゆっくりとなぞっていく。 「お強請りしたら、もっと触ってあげますよ?」 「ふ、んっ……。」 「お強請り。」 最初は、したかったらしたら?みたいな表情をしたものの、直ぐに口調がピリッとしたものになる。 りぃかは、一瞬息を止めたものの、微かに頬を赤らめて視線を彷徨わせた。 「りぃか。」 「───触って─。」 「どこを?」 「意地悪……。」 りぃかはムッとしたような表情を浮かべたが、その瞬間に、凛斗の手がりぃかの腰に触れれば、りぃかは、短く呼吸を切った。 「期待しました?」 「バッ……!」 「したくせに。」 くくっと小さく凛斗が笑う。 あまり見ない凛斗の笑い方だっただけに、りぃかは驚いたように凛斗を見た。 「まあ、俺も期待はしてますよ?」 「え?」 「久しぶり、ですからね。」 その凛斗の言葉にりぃかの心臓の鼓動は早くなる。 だがそれを悟られまいと、りぃかは軽く笑った。 「また……どうせ俺だけじゃないでしょ?」 「なんで?」 「別に……。」 「……いないですよ。彼女も彼氏も。他に体の関係を持ってる人も。」 凛斗はポツリと呟くと、ゆっくりりぃかの腰を円を書くように撫でる。 「ま、またまた……。」 「じゃなかったら、こんなになります? 」 そう言うと、りぃかの太腿に凛斗は、自身を押し付けてきた。 まだ、服は脱いでいないとはいえ、それでも分かるはっきり主張しているソレにりぃかはまばたきする。 「ホントに……?」 「嘘つく理由が分かりませんけど。」 凛斗は少し躊躇いがちに溜息をつき、視線を外した。 「凛斗さん、少し照れてる?」 「違う、違います……。」 「ふぅーん?」 立場が逆転した。 ニヤニヤとりぃかが凛斗の顔を覗き込む。 「じゃあ、いっぱいエッチしよ?」 「りぃか……。」 「エッチ……してください。」 りぃかは凛斗の首筋に腕を回すとギュッと抱き締めた。 「りぃか……。」 凛斗は、ゆっくり離れると、服のシャツを投げ捨てた。 そして、ボトムスを乱雑な動きで脱ぎ捨てると、再度りぃかを抱き締めた。 「ちょっと、先に言いますけど……。」 「うん?」 「壊してしまったら、俺が面倒見るので好きにさせてください。」 「………うん。」 りぃかは、話を聞こうと思ったが何やら熱のこもったような目を向けられていることに気付いていた。 だから、頷いてりぃかは笑った。 「痛い……。」 「どこがですか?」 「腰……。」 りぃかは、ぐちゃぐちゃなったベビードールを纏ながら笑って言った。 凛斗は、それはそれは、普段とは全く違った熱の入れようだった。 優しく温かく、激しく熱くりぃかを抱き、りぃかもそれに応えた。 結果、りぃかは小さく吹っ切れたような笑みを浮かべて、ベッドに沈んだまま動けないでいる。 「機嫌良さそうですね。」 「分かる?」 「はい。」 凛斗の答えに、りぃかは視線を天井に向けた。 今日は何か色々とスッキリした、と、りぃかは思い目を瞑った───。

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