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第2話 マックス

「草太、マックスは?」 「ああ、零士がいるとき、な。 俺一人じゃ連れて来れない。」  アメリカン・マスチフのマックスはデカい犬だ。性格は穏やかだが、デカくて顔が怖い。  太郎はマックスが大好きだ。 力が強く零士しか抑えが効かない。  草太の恋人、零士。草太とマックスと零士で暮らしている。  二人は夜職。夜中が仕事時間だ。 『ボーイズバー ジュネ』を二人で切り回している。経営者は陸さん。ヤクザだ。出入りで撃たれて死にかかった。  それで零士と草太が店を任される事になった。 「あの頃は美咲も生きてたから、楽しかったな。」  美咲と幼馴染みの零士が時々思い出したように言う。みんな美咲がいない事が未だに信じられないのだ。    太郎は夜中に思い出したように泣き出す事がある。そんな時、徹司はツラい。  パチっと目を開けて 「ママってどこにいるの? たろのママはどこ?」  泣きじゃくる太郎を抱きしめて一緒に泣いた。 「てつじ、泣かないで。」  太郎が頭を撫でてくれる。 「てつじも、ママに会いたいんだね。」 「そうだ。ママが、美咲が大好きなんだ。」  太郎が泣くと徹司も泣きたくなる。 (美咲に会いたいよ!)  よしよし、と頭を撫でてくれる息子がいじらしくてまた、泣けてくる。こんな事は誰も知らない。父と子で抱き合って泣きながら眠る。 (何が悪かったんだろう? 誰のせいでもない。でも、美咲はどこにもいないんだ。世界中探しても、どこにもいないんだ。)  その喪失感に打ちのめされる。 いつの間にか寝息を立てている太郎。徹司だけを信じて、徹司だけを頼って生きている小さい命。 (俺が絶対に守ってやるからな。) 「徹ちゃん、お見合いして見ないかい?」  近所の世話好きな人が話を持ってくる。 ここは田舎だ。親切だがおせっかいだ。太郎との水入らずな生活を邪魔されたくは、ない。 「ありがとうございます。 俺、結婚とかはもう懲り懲りなんで。 勘弁してください。

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