6 / 198
第6話 ブルース
零士と草太が暮らし始めてもう6年。
働いている『ジュネ』は地下にある。そのビルの1階、路面にジャズバーがあった。
『バー青山』ジャズ、ブルース、&モア、と銘打って、物知りのマスターと仲間たちが集まる。
零士たちも仕事終わりに立ち寄る事が多い。
常連の、バンマスと呼ばれるブルースマンとセッションするためだ。
マスターの奥さんはジャズピアニスト。草太のピアノの先生でもある。
常連が集まるといつの間にかブルースコードを爪弾く人がいる。誰かが即興で歌い出す。
「70年代のブルースシーンは、貧乏な歌が多かったな。アメリカの迫害された黒人にあやかってたんだ。」
「関西っぽいね、ブルースのイメージ。
西から、って言われてた。」
「零士、何か歌って。」
掠れたロッド・スチュワートを思わせる零士の声。零士ははにかみながら「マネー」をアレンジした歌を歌い始める。
ーそんなに俺が欲しいのか
ー身体を見せて稼ぐ
ー心はすり減っていく
ー気にしないさ
ー毎日、朝日は昇る
ー愛する人が欲しがる物は
ー俺じゃない
ーオーノー!
「イェーイ!」
「いつの時代にもブルースは、あるな。」
バンマスがすごいギターテクで、ハウリンウルフを弾き始めた。
「キリング・フロアだ。」
「ああ、レッドツェッペリンの
レモン・ソングだね。」
「みんな古い事、よく知ってるなぁ。」
「あの、ウルフのダミ声がいいんだよ。」
櫻子さんが卓上の子供のおもちゃのピアノを弾き始めた。以前お客さんが忘れて行った子供用。
人差し指で「500マイル」を弾いている。
櫻子さんはピアノの先生。マスターの奥さんだ。
バルーンみたいに太っていて歌が上手い。
誰かがハモニカで合わせる。ブルースハープ。
「ユキチ姉さん、来てたの?」
ユキチ姉さんのブルースハープは最高だ。
ーハンドレットマイル
ーあんたはもう100マイルも行ってしまった
ーハンドレットマイル、ハンドレットマイル、
ーもう500マイルも行っちまった
ともだちにシェアしよう!

