7 / 198
第7話 太郎の叔父
今日は太郎が、零士と草太の家に遊びに来ている。日曜日、『ジュネ』は定休日だ。
太郎はさっきからピアノに触って離れない。徹司は太郎にピアノを習わせたい。
「草太の先生を紹介してくれよ。」
「あの『バー青山』のマスターの奥さん、櫻子さんに聞いてみるよ。たろはピアノ好きか?」
「うん、草太みたいに弾けるようになりたい。」
徹司が
「俺は音楽、全然ダメだからなぁ。
草太は中学の合唱祭でピアノ弾いてたな。」
「美咲ちゃんは?ピアノ弾いた?」
「そう言えば美咲ん家にピアノあったな。」
幼馴染みの零士が思い出した。
「美咲って、兄弟いたよな。」
「ああ、美咲にそっくりな弟。そいつもピアノ弾いてた。今、何やってんだろう?」
「ああ、美弦(みつる)おじさん。
僕、知ってる。」
「美咲の三回忌で会ったな。まだ、独身だろ。」
零士も覚えている。
徹司は美咲の実家にあまり行きたくない。
太郎を取られるから。
亡くなった時、太郎を引き取ると言い張っていた美咲の親たちが苦手だ。
「男親一人で育てられますか? 無理ですよ。
シングルパパなんて太郎が可哀想です。
まだ、乳飲み子なのに。」
生まれたばかりの太郎を取られそうになって、
心の中で縁を切った。
あまりにも無神経な言い草だった。
「俺が育てます。親なんです。
太郎のたった一人の親なんだ。」
「あなたもいつか再婚する時に太郎が邪魔になりますよ。まだ、何もわからない今、ウチの子にするのがいいわ。」
「太郎は物じゃない!」
そこに美弦が割って入った。
「徹司さんに権利があるんだ。
俺たちは応援する事しかできないよ。
必要な時に預かったり、面倒を見ればいいだろ!」
娘を亡くした母親の気持ちもわかるが、子供を取られたくない。
(太郎は何があっても俺が育てる。)
味方してくれた美弦に感謝した。
それ以来意地でも親には頼らないできた。
美弦は時々、様子を見にきた。少しでも子供を見てくれる美弦には感謝した。美咲とは年子の弟だった。よく似ている。
俺ともそんなに年は離れていないはず。まだ、24、5才か。
太郎は懐いている。俺は向こうの親とは反りが合わない。
ともだちにシェアしよう!

