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第8話 マックス
ピアノに飽きたか、太郎がマックスを呼んでいる。今まで神妙に、そばでおとなしくしていたマックスが飛んで来た。
「マックス、おいでマックス!」
マックスに押し倒されて転げ回っている。
キャッキャっと楽しそうだ。
赤ん坊の頃は食い殺されるか、と心配した。
それほど、イカつい犬だ。
太郎は首に抱きついて離れない。
「ベロンッ」
大きな舌で舐められた。
「ひゃー、たろは美味しくないよ、
食べないでぇー。」
「ワオーン!」
「マックスはご機嫌なんだよ。
太郎が大好きだって。」
零士が来た。マックスが尻尾を振りまくっている。
「もっと、零士が好きだって。」
ちょっとヤキモチか。
それでもマックスは優しく太郎に寄り添っている。
「ピアノ、習うんだって?
いいね。楽器が出来るのって楽しいよ。
俺は、ギターも挫折した人間だ。」
「零士には歌があるじゃん。」
太郎は零士をすごく綺麗な人だ、と思っている。
「ママと友達だったんでしょ。
美咲ってどんな人?」
「ああ、美咲は明るくて、
何があっても負けない人だ。
いつも大丈夫だよって言ってくれた。」
「美咲に会いたかった。
ママ。ママって言いたかった。」
草太は涙が出そうだ。
「何か、習わせたいんだ。」
徹司の言葉に
「ピアノもいいけど合気道もいいぞ。
小さな力で大きな相手を倒せるんだ。」
ピアノと並行して、零士の実家の道場に通う事になった。週に2回、櫻子さんの教室に通う。
送り迎えは徹司の役目だった。
「来年は小学校だな。
大丈夫なのか?」
幼稚園も保育園も通わせなかった。
子供園には社会性を養う,と言う役目がある。
ずっと父親と二人だった。読み書きも教えてない。今時は、就学前に英語まで習わせると言う。
太郎は馴染めるだろうか?
今時の子供の中に入っていけるだろうか。
ピアノは楽しそうだった。櫻子先生が五線譜に書いて音符を教えている。楽譜の読み方も教えてくれる。
家でも、アップライトピアノを買った。
一軒家だから、音は大丈夫だろう。何せ、ここは田舎だ。
「徹司、知ってた?ピアノの白鍵は全部ドの音なんだよ。ハニホヘトイロハのド。おもしろいよ。」
まだ一オクターブ押さえるのもやっとの
小さな手で教えてくれる。
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