9 / 198
第9話 合気道の道場
今日は零士が太郎を、実家の合気道の道場に連れて行った。
「徹司、すごいんだよ。
零士は大きな人をひっくり返せるんだ。」
「たろは、何やったんだ?」
「ドシンドシンって。畳に落ちる事。」
「ああ、受け身の練習だ。
手の形も教わっただろう。」
「うん、身体の下に置いて力を逃がす、って。」
「難しそうだな。」
「ウチのおふくろが、美咲ちゃんの子供!って離さなかったんだ。」
「うん、零士のママが、うちの子になれって。」
徹司は太郎を抱きしめて
「ずっと、徹司といるんだよな。」
「うん、ずっと、一緒だよ。心配した?」
(この景色を草太には見せられないな。
また、泣かれる。)
零士は思った。
「零士ママのごはん、食べて来たよ。」
「おふくろが食べていけ、って。
お土産ももらって来たよ。」
重箱に綺麗な五目寿司が入っていた。
もう一段には、筑前煮とだし巻き玉子。立田揚げも入っている。
「おせち料理みたいだ。」
零士の家の草太の分もあった。
「マックスにも茹でた鶏、もらって来たよ。」
「いいなぁ、零士のおふくろさん。」
「おふくろさんってママって事?」
寂しそうな太郎に、胸を突かれた。抱きしめて涙を隠す。徹司は美咲を思うと今でも泣いてしまうのだ。
「ダメなパパだな、ごめん。」
零士が肩を抱いてくれる。男らしい仕草が胸に響く。
「ありがとな。草太にもよろしく言って。」
「バイバイ。」
と小さな手を振る太郎が車まで見送ってくれた。
零士は草太に出会った頃からずっとフィットに乗っている。ハイブリット車。
「ずいぶん乗ってるな、これ。」
「まだ、10年経ってないよ。
俺は長く乗る主義なんだ。
車だってワンオーナーがいいだろ。」
意外な零士の趣味に笑って手を振った。
(俺の車は、草太とマックスが乗れればいいんだ。バカでかい車はいらない。)
「ただいま。」
マックスが飛んで来た。
「チキンがあるぞ、鼻がいいな。」
「お疲れ!
これから仕事だけど大丈夫?」
「ああ、おふくろの飯食ってから行こうぜ。
明日はマックス、走らせてやろう。」
「うん、海に行こう!
マックス、楽しみだなぁ。」
ともだちにシェアしよう!

