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第16話 アレックス

 フランスに里帰りしていたアレックスが帰ってきた。アレックスは10年前から、零士の父親の合気道道場に弟子入りして研鑽を積んできたフランス人。部屋住みだった。  フランスでの合気道人気は根強い。 師匠の息子の美しい男。10年前は高校生だった。 零士に惚れた。  ゲイのアレックスは、零士もゲイだと知って、 零士のボーイズバーで働いていた。  アレックスも綺麗な容姿で、メンズストリップを継承していた。もちろん零士の指導がある。  長い間、零士だけを見て来た。 「えーっ、フランス人? じゃあ、ブラボーじゃなくてトレビアンとかだろ。」  美弦のツッコミに 「ああ、トレビアン!サバビアン!メルシーボークー!」  抱きついてベーゼ。 「やめろよ!」 「可愛いピアニスト。新しく入ったの?」 「おちつけ、この子はまだ、お試し、だ。」  零士が割って入った。 「零士、ジュテーム。僕の気持ちわかってよ。 国に帰ってママンにも言ったんだ。  師匠の息子に恋してるって。」 「何言ってんだよ。親父に破門になるよ。」  零士はタジタジだ。 「おまえの見境ないのに陸さんも困ってんだよ。 ヤリチンだって、有名だぞ。」 「おお、僕の溢れる愛は、どうしたらいいの?」 「重たいんだよ。どこかで恋してくれ。 俺たちはダメだ。」  このやり取りを、目を白黒させて美弦は聞いていた。すごく綺麗なアレックスに見惚れていた。  そのフワフワな金髪。青い眼。背が高く長い手足。指の先まで美しい男。 (俺はゲイじゃないよな。 振り回されてるだけだ。ここはヤバい。) 美弦は焦った。 「帰ります。」 「あ、営業が終わったら、上のジャズバーに行こうと思ってるんだ。もう少し待ってて。」  引き止められて居心地の悪い店にとどまった。 アレックスが席について離れない。 「あの、アレックスさんは零士が好きなの?」 「おお、もちろんですよ。 零士が高校生の頃から見ていたんだ。 こんな店で働き始めて、ボクは心配なんだ。 ボクは寂しいんだ。キミ、名前は?」 「さっき言ったと思うけど。 美弦(みつる)美しい、に弦だよ。 弦は弓に張る弦。」 「おお!綺麗な名前だ。キミは美しいね。 今夜はひとりかい?ボクのベッドにおいでよ。」 「いい加減にしろ!」 零士が飛んできた。 「アレックス、俺を怒らせないでくれ。」  今夜は罪深い風が肌を燃やす。

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