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第19話 思い出・・切ない
そんなことを思い出した。懐かしくて切ない思い出だった。こんなに早く別れが来るなんて。
だれでも、出会いの頃の思い出があるだろう。
鮮烈に思い出される切ない思い。
美咲を愛した。そっくりな弟、美弦。切ない。
「俺はなんでこんなに腹が立つんだろう。
アレックスと美弦。お似合いじゃないか。
男同士が許されるなら、俺でもよかったんじゃ?」
眠っている太郎の顔を見ていた。大切な宝物がここにいる。思わず抱きしめてキスした。
「う、うん、てつじ、まだ夜だよ。
こわいゆめ、みたの?」
抱き返して、なぐさめようとしてくれる。
「たろは、やさしいな。もう少し眠ろう。」
ーぎゃあ,ぎゃあっ。
生後間もない赤ん坊の太郎。
「なんで泣くんだろう!
おむつも変えたし、ミルクもあげたし。
ああ、ミルク全然飲まないや。」
徹司は途方に暮れた。
もう何時間も抱いて揺らして、あやしている。
夜泣きが収まらない。
「トントン。」
控えめにドアをノックする音。
「兄貴、夜遅く、すみません。
なんか気になって。」
美弦がドアを開けて入って来た。
真冬の寒い夜、鼻を真っ赤にして自転車で来たという。ギャン泣きしている太郎を見て,中身の残った哺乳瓶を見て、
「ミルクもあまり飲まないんですね。」
「ああ、3時間おきにあげなくちゃいけないのに、飲まないんだ。」
「これ、買って来たんで。」
赤ちゃん水、と書いたペットボトル。洗って立てかけてあった哺乳瓶に水を入れて太郎の口に持っていく。
「じゅっじゅっ。」
「わあ、すごく飲んでる。」
「喉,乾いてたんだな。」
「ミルクだけでいいって本には書いてあるのに。」
「なんかこの部屋暑くないですか?」
「赤ちゃんは体温調節が下手だからとにかく暖めろ、って。」
「今、冬なのに徹司さん、半袖ですよ。」
「ああ、大人には暑いと思って。」
ベビーベッドに寝かせて肌着をくつろげてやるとすごい汗をかいている。一枚脱がせると、嬉しそうに笑っている。
「冬なのに暑かったんですね。」
「ああ、大人と同じなんだな。暑いよ。」
飲みかけのミルクを口に持っていくと今度は勢いよく吸い付いた。
「ああ、ありがと。助かったよ。
この所、夜泣きがひどくて。
育児書の通りにしてるのに、と悩んでたんだよ。
こんな簡単なことだったんだ。
暑かったのか、ごめんよ。」
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