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第21話 クズの息子
奥の事務所から出て来て、店を見渡せる所に立って全体を見ている陸。
背の高い美丈夫。相変わらずきつい目をして睥睨している。
「陸、そこに立つと殺気がビンビン伝わって来るよ。いい加減にしろ。客が入って来ない。
反社、丸出しだ。」
零士の言葉に顎で席を示す。そこにはあの由香が流星とソムチャイに挟まれてご満悦だった。
「流星の元カノだ。」
「はっ?ヤキモチか。陸らしくない。」
零士の肩を抱いて
「見てろよ。おもしろいぜ。」
トイレから青い顔をした若者が戻って来た。
「荒井ってんだ。
誘拐(さら)って来た訳じゃねえよ。
自分から来たんだ。」
食い詰めた若者は、どこからか流星の居場所を聞いて泣きついて来たらしい。
「へええ、荒井課長の息子なんだ。
課長はまだ、見つからないの?」
由香が話を聞いている。
「流星さん、どうか、俺を雇ってください。」
「え?君はまだ学生じゃないの?」
授業料を払えなくて大学は辞めたそうだ。
母親の精神がおかしくなって、入院中だと言った。
「大変だったね。今どこに住んでるの⁈」
「ネットカフェを転々としています。」
「家は?」
「親父の不始末で取られた。
ヤクザが付いてたらしい。」
そのヤクザがこの店のオーナーの陸だとは知らないようだ。
「親父が、会社で流星さんの面倒を見てやったから、頼れって。いなくなる前に言ってたんだ。」
「俺?課長とはそんなに親しくなかったけど。」
本当はパワハラでいじめ抜かれた。
背の低い、パッとしない顔立ちの息子は、使い物になりそうもない。
「零士さん、どうします?」
「ウチは今、人手は足りているし、な。」
由香が呆れている。
「あんた、父親がどんなクズだったか知らないの?とんだ、パワハラ、セクハラ野郎だったよ。失踪してるんだって?無責任だね。」
ずっと嫌な思いをして来た事務職だった由香が、はっきり言う。
「いらっしゃい。」
「あ、オーナーの陸さん。」
流星が紹介する。
「いいんじゃねぇ?
うちの雑用でもしてもらえば。
部屋住みからだな。」
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