26 / 198

第26話 誘拐

 路肩に車が停まっている。ここは通学路で交通量はそれほど多くないが、車の駐停車禁止の黄色いラインが引かれている無余地道路なのだ。  子供たちは、停まっている車の横を大きく迂回して歩いている。  下校時間になってみんなが大方通り過ぎた。あとは少し遅れて一人、二人、歩いて来る。  不自然に車の後部ドアが開けられている。外に女の人が立っている。中年の女性。  そばを通った女子児童を突然抱え上げて車に押し込んだ。咄嗟のことで声も出ない。 「あっ!」 後ろから歩いて来た太郎が駆け寄る。 「葵ちゃん、知ってる人?」 「助けて助けて。」  女の子は泣き声をあげた。 太郎はドアの隙間に飛び込んで、葵ちゃんの手を掴んで引きずり降ろした。  中年の女は慌てて車に乗り込むと同時に車は急発進した。  葵ちゃんの手は擦り傷で血だらけだ。 わあわあ泣いている。 「大丈夫?学校に戻れる?先生呼んでこようか?」  太郎はオロオロした。 「スマホあるの。」 ランドセルからスマホを出した。 「家とママの電話にしか繋がらないの。」 とりあえず、電話をした。  後から歩いて来た小学生が大騒ぎだ。 「大丈夫?この子にやられたの?」 「イジメ?」  葵ちゃんは小さな声で 「違う違う」 泣きながら言うので聞き取れない。 「ちょっとキミ、一年生? 警察に行こう。」 「ケガさせてるよ。血が出てる。」 「俺じゃねえよ!」  太郎は泣きそうだった。上級生らしき女子に詰め寄られた。 「おれ、だって。乱暴な言葉。不良だ。」 「俺じゃねえよぉ〜!」  叫んで走り出した。葵ちゃんは誰かが助けてくれるだろう。走って走って家に帰って来た。  泣きながら走ったので顔がドロドロだ。 「お帰り。おーどうした?」  玄関でしゃくりあげて泣く太郎を徹司が抱きしめた。 「落ち着け。ゆっくり話してごらん。」  顔を拭きながら優しく抱き上げた。 「葵ちゃんが車に無理やり乗せられそうになったの。俺、ドアに飛び込んで閉まらないようにして葵ちゃんを引っ張ったの。」  それで擦り傷ができて出血したそうだ。 その時は誰もいなかったが後ろから来た2年生に責められた、という。 「なんだ、誤解じゃないか。 葵ちゃんが証言してくれるよ。」

ともだちにシェアしよう!