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第26話 誘拐
路肩に車が停まっている。ここは通学路で交通量はそれほど多くないが、車の駐停車禁止の黄色いラインが引かれている無余地道路なのだ。
子供たちは、停まっている車の横を大きく迂回して歩いている。
下校時間になってみんなが大方通り過ぎた。あとは少し遅れて一人、二人、歩いて来る。
不自然に車の後部ドアが開けられている。外に女の人が立っている。中年の女性。
そばを通った女子児童を突然抱え上げて車に押し込んだ。咄嗟のことで声も出ない。
「あっ!」
後ろから歩いて来た太郎が駆け寄る。
「葵ちゃん、知ってる人?」
「助けて助けて。」
女の子は泣き声をあげた。
太郎はドアの隙間に飛び込んで、葵ちゃんの手を掴んで引きずり降ろした。
中年の女は慌てて車に乗り込むと同時に車は急発進した。
葵ちゃんの手は擦り傷で血だらけだ。
わあわあ泣いている。
「大丈夫?学校に戻れる?先生呼んでこようか?」
太郎はオロオロした。
「スマホあるの。」
ランドセルからスマホを出した。
「家とママの電話にしか繋がらないの。」
とりあえず、電話をした。
後から歩いて来た小学生が大騒ぎだ。
「大丈夫?この子にやられたの?」
「イジメ?」
葵ちゃんは小さな声で
「違う違う」
泣きながら言うので聞き取れない。
「ちょっとキミ、一年生?
警察に行こう。」
「ケガさせてるよ。血が出てる。」
「俺じゃねえよ!」
太郎は泣きそうだった。上級生らしき女子に詰め寄られた。
「おれ、だって。乱暴な言葉。不良だ。」
「俺じゃねえよぉ〜!」
叫んで走り出した。葵ちゃんは誰かが助けてくれるだろう。走って走って家に帰って来た。
泣きながら走ったので顔がドロドロだ。
「お帰り。おーどうした?」
玄関でしゃくりあげて泣く太郎を徹司が抱きしめた。
「落ち着け。ゆっくり話してごらん。」
顔を拭きながら優しく抱き上げた。
「葵ちゃんが車に無理やり乗せられそうになったの。俺、ドアに飛び込んで閉まらないようにして葵ちゃんを引っ張ったの。」
それで擦り傷ができて出血したそうだ。
その時は誰もいなかったが後ろから来た2年生に責められた、という。
「なんだ、誤解じゃないか。
葵ちゃんが証言してくれるよ。」
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