29 / 198

第29話 太郎の冤罪

「だいたい調べは付きましたよ。 まだ、真犯人は捕まっていませんが。」  太郎の言う事がほぼ正しかった。 車の停まっていた道路の周辺に聞き込みをした結果、近所の人の証言が複数取れた。 「いつも、小学生の下校の時間くらいに合わせて車が停まっていて、邪魔だし変だと思っていたのよ。」 「中年の女性が車の後ろに立っていて、運転席にも男性がいるの。」 「誰かを待ってるのか、と思ったけど誰も来ないし。」  子供をねらってるんじゃないか?と噂が立ったという。  学校にも注意喚起の電話を入れた人がいた。 「大きなお世話って感じだったな。 学校は問題意識が低いと思う。」 「近所の人がネットで見たって。 児童ポルノの事。気持ち悪いわ。  子供の誘拐って、アメリカあたりでは、性的いたずらのためなんですって。」  話好きな近所の人たちが協力してくれた。 吉田は古巣の警察にも出向いた。 「この頃は車を使って,無理やり攫ってしまう、というのか多いらしい。  太郎が見たのも、まさにそれだ。 とんだ濡れ衣を着せられたんだな。」  後日、警察官が全校生徒を集めて話をした。 「皆さん、知らない車が停まっていたら、そばを通らない事。離れて歩きましょう。  車に無理やり連れ込まれそうになった事件がありました。勇敢な生徒が助けたそうです。  その子がいなかったら車に乗せられて、どこか遠くに連れて行かれたかも知れません。  みんな気を付けましょう。」  「警察の話で車の存在は認められました。 大人の強い手で押し込められたら逃げられません。近寄らないように。」  太郎の疑いは,晴れた。  それでも徹司は治まらない。 ーやっぱり、ひとり親だから躾が出来てないのよ。 ー乱暴な子が合気道なんて習って益々暴力的になるわ。  根も葉もない噂が飛び交う。太郎が可哀想になる。 「徹司、太郎を憐れんではいけない。 太郎は正しい事をしたのだから、褒めてあげて。」  美弦がそんな事を言ってくれた。 徹司はずっと心に秘めていた事を思った。 (美咲にそっくりな美弦。 でも美咲の代わりじゃない。 俺はおまえが好きだ。)  心の中で叫んだ。 太郎が美弦の膝で甘えている。 (甘えたいのは俺だよ。)  太郎が羨ましい。抱き上げて太郎の頬にキスした。 (キスしたいのは美弦に、だ。) 「徹司、美弦にもキスしてあげなよ。」 「えっ?」

ともだちにシェアしよう!