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第32話 口を聞かない

 太郎は男子としかしゃべらなくなっていた。 徹司に 「女は嫌いだ。」 と言っていたのは知っている。 「太郎くんは葵と口を聞いてくれないそうです。 怒ってるのかな?葵を許してあげて。  あんな事があって怖かっただけなんです。」  葵ちゃんが証言しなかったせいで、太郎は嘘つき、と言われた。他の男子からイジメを受けた。 「こいつ、女にケガさせて、そこにいない犯人をでっちあげたんだぜ。」  勝手な想像で追い詰めてくる。蹴られたりぶたれたり。あまりにもしつこくうるさいので軽く投げ飛ばした。指先の軽い力だった。やられた男子は大げさに教師に言いつけた。  葵ちゃんはずっと見てたけど、やはり何も言えなかった。  もう2年生だ。可愛く美少年に成長した太郎は女子にモテモテだった。だが、態度は冷たく、 怖がられても、いた。  合気道も身に付いて少しは使えるようになった。厳しい師匠の教えがあって、滅多に技は使わないが、中にはケンカをふっかけてくる奴もいた。主に上級生。年上の連中だ。 ーー血気の意を戒める事ーー  道場訓がある。ケンカはご法度だ。合気道は争わない武道、と言われている。  学校では、やられたガキどもが太郎を 「乱暴者だ。すぐ暴力を振るう。」 と,噂を広めた。馬鹿な教師もレッテル貼りを助長した。 「太郎くんには困ったものです。 父親しかいないから、乱暴なのかな。」  バカな教師によって子供が歪められている。 周りの大人たちが努力してその歪みを直すしかない。  寄ってたかって、そんな噂をしているのを見ると,葵ちゃんがくってかかる。 「太郎くんは乱暴じゃないもん。 合気道は暴力じゃないもん。」  泣きながら、かばってくれる。 (もう絶対、太郎くんをがっかりさせないって決めたの。強くなるって。心も。)  子供はいつの間にか学んでいる。そして成長している。頭の固い大人は置いていかれる。  徹司と美弦にはあいかわらず進展はない。 何も出来ないでいる。 (アレックスに取られるぞ。)

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