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第47話 日本人の子供

 あの従業員用のマンションに子供たちがいた。漁船で密入国した子供たちも。他の皆も、避難していた軽井沢から戻って来ていた。  陸は、子供たちをなるべく怖がらせないように、言葉の通じるウォーキングダンサー達の近くに置いた。  陸が孝平の家から助けた子供の一人、誘拐されて来たらしい日本人の子供は、田中誠也と名乗った。一人だけ清潔感のある子供。  吉田のコネで警察署から情報をもらった。 やはり、捜索願いが出されていた。 「どこもケガしてないな。」  何も言わない約束で警察に連絡した。 田中誠也はすぐに親が迎えに来た。 「バイバイ。」  ケロリとして親たちと帰って行った。帰る家があるのは幸せだ。迎えに来る親がいる。  陸は事情を聞かれ、コッテリと絞られたが、詳しい事は黙秘し続けた。 「俺、子供を助けたんだぜ。 まるで誘拐犯人みたいじゃねえか!」 「まあまあ、アンタは反社なんだよ。 まともに相手にされると、思うなよ。」  吉田の顔で、この程度で済んだのはラッキーだった。組関係の痛くない腹を探られるのは、勘弁だ。 (それに、あの顧客名簿を精査しねえと、な。) 「だからぁ、目の前でガキが車に無理やり乗せられたのを見てしつこく追いかけたのよ。  追い回したら車を止めてガキを下ろして、猛スピードで逃げてったの。  で、ガキを拾ってこうして届けたんじゃね? まるで俺たちが悪いみたいなの、納得いかねえんだわ。」 「それだけじゃねえだろ。 こういう誘拐事件が頻発してるんだ。  何か知ってんだろ。」 「誘拐が頻発? はじめて聞いたわ。いったい何の目的で? 警察は何か掴んでんだろう?」 「ああ、外国人が絡んでるようだ。 上の方から止められてるんであまり深入り出来ないんだよ。何か知ってたら教えてくれ。」  逆に聞かれてしまった。 (何かあるな。あの名簿に関する事か?) 「ま、誘拐なんて、しっかり取り締まってくれよ。もう帰っていいか?」  警察官はイヤな顔をしながら渋々帰してくれた。一緒に来た流星が、心配そうな顔をして飛んできた。 「陸、大丈夫か?」 「ああ、他のガキが心配だ。 あの子たちは何も持ってないんだ。」

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