50 / 198
第50話 囮
太郎は自ら囮になると言った。徹司は太郎を信じた。
「合気道も休まず続けて来たんだ。
大丈夫だな。」
あの通学路にこの頃また、不審な車が停まっている、と通報があった。
警察に出入りしている吉田が徹司に話を持って来た。以前,同郷の草太のことで仕事を依頼した事があった。
「そんな危ない事ダメだよ。」
美弦が大反対した。太郎に囮になってもらって誘拐犯を捕まえる、と言うのだ。
「万が一、何かあったらどうするんですか?」
「大丈夫だよ、俺やってみたい。
葵ちゃんに犯人を見せたい。」
太郎がやる気満々だ。
美弦は徹司を見た。つらそうな顔で見つめてくる。
「美弦はまるで太郎のオカンだな。」
取り押さえた婦人警官のホルスターに鎖で繋がれた拳銃が見えた。
「カッコいい!俺警察官になる!」
そばにいた元警察官の吉田が、頭を撫でてくれた。翌週、警察署で太郎の感謝状贈呈が行われた。晴れの舞台に緊張気味の太郎が可愛い。
陸は顧客名簿を見た。
恐るべき顔ぶれだった。国家がひっくり返るような重要人物が多く名簿に記載されていた。
それと一緒に写真やDVDもあった。胸が悪くなるような数々の映像。
会長の堂島鉄平にも見てもらった。
「ひでぇな、極道でもこんな事はやらねえよ。」
孝平伯父が呼ばれた。
「これ、おまえんところにあったんだろ。
見たのか?知ってたのか?」
伯父貴は急に老け込んで小さくなったようだ。
「これ使って一仕事するか?」
「何するんだよ。」
「俺はなぁ、日本を守りたいのよ。この頃目に余る国があるだろう。」
「反日のお隣さんだよ。
俺は昔から一緒に仕事している華僑に恨みは無え。シノギはお互い様だからな。
中国と戦争する気も無え。
だけど目に余る事は正さなきゃならねえだろ。」
これを見ろ、と投げてよこした写真が数枚。
写真には泣き叫ぶ子供を凌辱している場面が見てとれた。
「お前は,子供いないんだよなぁ。
じゃあ、わからねえか?」
もう一つ臓器売買の話も聞いていた。
「日本人の子供を誘拐するのは、臓器を取るためだって?」
ともだちにシェアしよう!

