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第50話 囮

 太郎は自ら囮になると言った。徹司は太郎を信じた。 「合気道も休まず続けて来たんだ。 大丈夫だな。」  あの通学路にこの頃また、不審な車が停まっている、と通報があった。  警察に出入りしている吉田が徹司に話を持って来た。以前,同郷の草太のことで仕事を依頼した事があった。 「そんな危ない事ダメだよ。」  美弦が大反対した。太郎に囮になってもらって誘拐犯を捕まえる、と言うのだ。 「万が一、何かあったらどうするんですか?」 「大丈夫だよ、俺やってみたい。 葵ちゃんに犯人を見せたい。」  太郎がやる気満々だ。 美弦は徹司を見た。つらそうな顔で見つめてくる。 「美弦はまるで太郎のオカンだな。」  取り押さえた婦人警官のホルスターに鎖で繋がれた拳銃が見えた。 「カッコいい!俺警察官になる!」  そばにいた元警察官の吉田が、頭を撫でてくれた。翌週、警察署で太郎の感謝状贈呈が行われた。晴れの舞台に緊張気味の太郎が可愛い。  陸は顧客名簿を見た。 恐るべき顔ぶれだった。国家がひっくり返るような重要人物が多く名簿に記載されていた。  それと一緒に写真やDVDもあった。胸が悪くなるような数々の映像。  会長の堂島鉄平にも見てもらった。 「ひでぇな、極道でもこんな事はやらねえよ。」  孝平伯父が呼ばれた。 「これ、おまえんところにあったんだろ。 見たのか?知ってたのか?」  伯父貴は急に老け込んで小さくなったようだ。 「これ使って一仕事するか?」 「何するんだよ。」 「俺はなぁ、日本を守りたいのよ。この頃目に余る国があるだろう。」 「反日のお隣さんだよ。 俺は昔から一緒に仕事している華僑に恨みは無え。シノギはお互い様だからな。  中国と戦争する気も無え。 だけど目に余る事は正さなきゃならねえだろ。」 これを見ろ、と投げてよこした写真が数枚。  写真には泣き叫ぶ子供を凌辱している場面が見てとれた。 「お前は,子供いないんだよなぁ。 じゃあ、わからねえか?」  もう一つ臓器売買の話も聞いていた。 「日本人の子供を誘拐するのは、臓器を取るためだって?」

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