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第51話 陸の生い立ち

「俺たちだけでは無理ですよ。」 「暗殺なら出来んだろ。」 「掃除屋ですか?」 「ああ、この政治家を掃除する。 ヒットマンが必要だ。」 「必殺仕事人みたいな?」  陸は、そんな呑気な事は言ってられない、と思った。 (ガキの頃、どんなにアンパンマンを呼んだか。 心の中で正義の味方を待ち侘びたか。)  陸の独白。 暗い部屋に転がされている。もう、しばらく何も食べてない。2才の妹は風呂場の石鹸を齧って殴られた。やっとハイハイするだけの妹がひもじくて口に入れたのを見つかって顎を蹴られた。  痛くても声が出せない。俺は4才くらいだっただろう。身体を張って妹を助けた。口からダラダラとヨダレと血のようなものを流して転がっている妹。 「死ぬな!死なないで! 俺を置いて行かないで!」  冷たくなっていく亡骸に縋って泣いた。 しばらくして児童相談所の人が入って来て妹を見つけた。  俺の口から妹の小さな手を取った。寂しくて反応のない妹の手を舐めていた。冷たくなっていく妹のその手だけ、俺の口で温めてやったんだ。  児相の職員が泣きながら警察を呼んだ。 「ごめんよ。私たちがもっと早く踏み込んでいれば。」  アル中の父親と、パチンコ依存症の母親が逮捕されるのを見ていた。 「この子は生きてるよ。大丈夫か?」  何か温かい飲み物をもらった。受け付けなくて吐いた。牛乳だったかもしれない。 「キミはりくくんか?いまぜきりくってキミだろ?」 「おれは、りく?いまぜき?」 名前を呼ばれてもわからなかった。 「この子たちは無戸籍児だよ。」 それで中々探してもらえなかった。近所の人が、子供がいるらしいのに姿が見えない、と通報したのでわかったと言う。泣き声が聞こえていたのがパッタリ聞こえなくなったと心配してくれた人がいた。 「ハナ、もう少しで石鹸食べなくてすんだのに。」  顎が砕けていたと言う。親に蹴られて顎が砕けたまま、何も食べられずにしばらく生きていた、とずっと後になってから聞いた。  俺は号泣した。哀れな妹のために。俺の顎が砕かれなかったのはタマタマだ。  縁を辿って、安藤の父と母が俺を迎えてくれた。養子にしてくれた。それからは真っ当な人生だった。  なぜ、極道になったかって? 親父が安藤組の組長だったからだ。親父の組を守るため、俺は何でもやった。喧嘩三昧だった。  特に空手は徹底的にやった。誰にも負けたくない。空手は縛りが多く、ケンカには向かない。  でも頑張って続けた。誰にも負け知らずだった。高校生になって吉田に負けるまでは。

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