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第53話 日常
日常が戻って来た。陸の店にいつもの顔ぶれが帰って来た。
あの寮になっているマンションには子供が増えた。6人だ。みんな学校に通っている。
小学生。戸籍がなくてもビザを出してもらって義務教育を受けられる。
「ここのガキどもはマトモだな。
根性の腐った奴はいない。驚くよ。」
みんな学校に行けるのが嬉しくて一生懸命、勉強している。今までが不遇過ぎたのだ。
「日本はいい国だなぁ、受け入れてくれる。」
警察は動きが止まったままだ。あの誘拐犯の夫婦は、なんと不起訴で終わって帰国した。
「なんでだよ。現行犯だぞ。国に帰らせるなんて。」
吉田の懇意にしている刑事が憤りを隠せない。
「大きな声で言えないが、上からの圧力だ。
悔しいよ。あの国では酷い事が隠蔽されている。」
人身売買につながる案件だ。なんの解決もなく、子供たちもお咎め無しだった。それは良かったが。
日本に馴染むには、本人たちの努力があった。
差別と偏見はついて回る。太郎は片親なだけで差別された。何か少しでも失敗するとそれを言われる。一々抗議してもキリがないので、しゃべるのをやめた。
太郎は中学生になった。背が伸びて、誰もが振り返る美少年だ。
部活は合気道がないので剣道部に入った。
「棒一本あれば勝てるんだ。
カッコいいだろ。」
周りの影響でケンカに勝つ方法ばかり考えていた。たまに顔を見る陸が煽るのだ。
不思議な縁、か。太郎は極道の陸に興味がある。美弦がピアノを弾いている店に、早い時間ついて行って、陸に会う機会があった。
「カッコいいな、あの人。
空手が強いんだって。」
美弦は太郎がヤクザに興味を持つのが気に入らない。心配だ。
『ジュネ』にはアレックスもいる。合気道の内弟子だったアレックスは、以前から知っていた。
「太郎、カッコよくなったね。
今13才か。あと5年したら店に出られるよ。」
「なんだよ、太郎にホストやらせんのかよ!」
美弦は太郎が店をうろついて、ヤクザと顔見知りになるのが嫌だった。
『ジュネ』には死ぬほど綺麗な男たちがたくさんいる。セクシーなウォーキングダンサーたちや、イケメンホストたち。
今,絶大な人気のメンズストリッパー、アレックス。男たちから目が離せない。
近所のジムに通って身体も一級品だ。
学校帰りに竹刀を入れたカバンを抱えて店に遊びに来る太郎は、男たちのアイドルだ。
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