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第54話 奥に迷い込む

 まだ営業前の『ジュネ』の中をうろついている太郎。スタッフも揃っていない店を中まで探検する。 (この奥はなんだろう?)  店の奥のドアを開けた。 「わ、ここって・・?」  T会の枝、安藤組の事務所になっている。その奥には陸の居室がある。普段は寝泊まりしないが一応ベッドと浴室が完備されている。  入るとすぐ、組事務所の鴨居にズラリと並んだ組の名入りの提灯に圧倒される。  正面に大きな額に入った「誠」の文字とその下に大きな机。そして組長の椅子(?)  ま、陸は若頭だが。組長は義理の父だ。 代紋の下に大小の日本刀が飾られている。  剣道をやっているからには一度は真剣を触ってみたい。出来れば、振ってみたい。  太郎はドキドキしながら奥のドアを開けた。 人がいた。 「なんだ、テメェは?ノックぐらいするもんだ。」 「あ、ごめんなさい。誰もいないと思ったんだ。」  ベッドに腰掛けてシャツのボタンを停めているのは流星だった。奥の風呂から出てきたのは、バスローブ姿の陸だ。  流星は急いでシャツを着て、かけてあるスーツを着た。  ネクタイを結んでいる手がかっこいい。ドライヤーで髪を乾かしたりしている。  絵になる男、って感じ。 在宅で仕事をしている徹司は滅多にスーツを着ないからスーツ姿の大人に免疫がない。  ボーッと見惚れてしまった。 陸が近づいて来て肩を抱いた。 「ようっ、今,学校から帰って来たのか?」 「うん、陸さんたちは眠ってたの?」 「ああ、夜中の仕事だからな。」 (さっき肩を抱かれた時、陸さん、おへそが見えた。なんかドキドキした。)  耳元でしゃべってる顔が近い。 (低い声。大人なんだ。大人の声。  近くで陸の顔を見る。 (すごくイケメン。整った顔。) 鼻先を首が掠めた。喉仏?  手を伸ばして触った。太郎も少しある。 声変わりの印?。声が手に響く。

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