54 / 198
第54話 奥に迷い込む
まだ営業前の『ジュネ』の中をうろついている太郎。スタッフも揃っていない店を中まで探検する。
(この奥はなんだろう?)
店の奥のドアを開けた。
「わ、ここって・・?」
T会の枝、安藤組の事務所になっている。その奥には陸の居室がある。普段は寝泊まりしないが一応ベッドと浴室が完備されている。
入るとすぐ、組事務所の鴨居にズラリと並んだ組の名入りの提灯に圧倒される。
正面に大きな額に入った「誠」の文字とその下に大きな机。そして組長の椅子(?)
ま、陸は若頭だが。組長は義理の父だ。
代紋の下に大小の日本刀が飾られている。
剣道をやっているからには一度は真剣を触ってみたい。出来れば、振ってみたい。
太郎はドキドキしながら奥のドアを開けた。
人がいた。
「なんだ、テメェは?ノックぐらいするもんだ。」
「あ、ごめんなさい。誰もいないと思ったんだ。」
ベッドに腰掛けてシャツのボタンを停めているのは流星だった。奥の風呂から出てきたのは、バスローブ姿の陸だ。
流星は急いでシャツを着て、かけてあるスーツを着た。
ネクタイを結んでいる手がかっこいい。ドライヤーで髪を乾かしたりしている。
絵になる男、って感じ。
在宅で仕事をしている徹司は滅多にスーツを着ないからスーツ姿の大人に免疫がない。
ボーッと見惚れてしまった。
陸が近づいて来て肩を抱いた。
「ようっ、今,学校から帰って来たのか?」
「うん、陸さんたちは眠ってたの?」
「ああ、夜中の仕事だからな。」
(さっき肩を抱かれた時、陸さん、おへそが見えた。なんかドキドキした。)
耳元でしゃべってる顔が近い。
(低い声。大人なんだ。大人の声。
近くで陸の顔を見る。
(すごくイケメン。整った顔。)
鼻先を首が掠めた。喉仏?
手を伸ばして触った。太郎も少しある。
声変わりの印?。声が手に響く。
ともだちにシェアしよう!

