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第55話 ドキドキ

「着替えたいんだ。いいのか? ここで見てるか?」 「えっ?いいの?」  そういう間もなく陸はバスローブを脱いで背中を向けた。裸の背中の綺麗な入れ墨。 「すごい、きれい!」 「ああ、マリア観音って言うんだ。」  横で流星が着替えを手伝う。黒いブリーフを渡す。シルクの綺麗な下着。黒いシャツ。マリア観音が隠れてしまう。スーツはグレーっぽい。  ズボンを穿くのを手伝ってネクタイを結んであげてる。濃いグレーの無地に見えるネクタイ。  ベッドに腰掛けた陸に靴下を履かせてあげてる。流星が上着を着せ掛けて、立ち上がった陸は一部の隙もない粋なヤクザ、だった。 「カッコいいな、陸。」  太郎は自分の中学の制服がダサく感じた。 「俺も早く大人になりたい。スーツが着たい。」 「急いで大人になんかならなくていい。」  大きな手で頭を押さえられて顔を覗かれた。 タバコの匂いがした。ネクタイの結び目の所に見える喉仏。低い声でしゃべる陸がセクシーだ。  太郎はこの気持ちがセクシュアルなものだと気づかない。  背の高い二人が目の前に立って軽くくちづけをした。太郎は目の前で起こった事が信じられない。 「男同士でキスした!」  陸は笑って 「おかしいか?」 「ううん、カッコよかった。」 「何でもカッコいいで済むんだな。 これから仕事だから、太郎はもう帰れ。」 「うん,わかった。帰るね。」  頭を撫でられた。 太郎はお腹がキュッとするのを感じた。 (変な感じ。)  ピアノの所に美弦がいた。 「太郎、おまえ、今どこから出て来た?」 「うん、奥に陸がいた。 流星と裸でベッドにいたよ。」 「おまえ、見たのか?」 「うん、着替える所だったよ。 背中の刺青,見たよ。綺麗だった。」  美弦は焦った。陸はどこでも気にしないでセックスを始めてしまうと聞いてはいたが、まさか、太郎の前で?なんてあり得ない。 「俺、帰るよ。」 「大丈夫か?」 「うん、自転車だから。」  太郎が帰ったのを見計らって陸の事務所に駆け込んだ。 「陸、太郎になんてもん見せたんだよ!」 「は?見せた?ああ背中のマリアか?」 「太郎にヤクザなもん見せるなよ!」

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