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第56話 思春期
「ただいまぁ。」
「おう、お帰り。また、美弦の所に寄ってたのか。」
徹司は割と放任だったが、中学生になった太郎を見てちょっと気になっていた。
叔父の美弦がピアノを弾いている店は、いわゆるホストクラブで、かなりセクシー路線の店だ。
しかも、反社の経営。
そしてなぜかゲイが多い。徹司と同郷の草太も働いている。草太の彼氏の零士が実質、店を任されている。
徹司が同じ大学の美咲と結婚して生まれた太郎。出産と同時に亡くなった美咲。残された太郎を一人で育てて来た。
今は美咲の弟、美弦がほとんど一緒に子育てを手伝ってくれている。
太郎も中学生になった。周りの大人たちと同じように、みんな名前を呼び捨てだ。
周りの男たちは何故かイケメン揃い。ホストだから当然か。
「ねえ、徹司、俺、今日陸と流星に会ったんだ。」
彼らがゲイカップルなのを太郎に話した事はない。思春期の微妙な心にどんな影響を与えるかわからない、と危惧している。
徹司の友達の草太が零士と同棲しているのは太郎も知っているが、ゲイの本質を知らない。
「太郎は陸たち二人を見てどう感じたんだ?」
「うん、二人がキスしてたの。
見て、お腹がキュッとした。なんか変な感じ。
羨ましいような、俺もして欲しいと思った。
あそこが固くなる感じ。」
「陸が好きだって事?」
太郎はそうじゃない、と思った。
「違うよ、考えた事ないよ。
カッコいい人だと思ってたけど、好きとかと違う。」
「太郎は学校に好きな人いないの?
クラスの子とか。」
太郎はつらそうに
「女は嫌いだ。臭いんだ。」
「そんな事ないよ。女の子はいい匂いがする。
美咲は、おまえのママは、フワフワっていい匂いがしたぞ。」
「徹司、今でも美咲を愛してる?」
亡くなってからもう13年も経つ。
結婚前は多くの女性と遊んでいた徹司だ。
太郎の同級生のママたちの間でも、イケメンパパと騒がれている。でも、それだけだ。浮いた噂の一つもない。
徹司自身、女が欲しい、と思った事がなかった。美弦からは
「修行僧のようだ。一切の快楽を否定してるんだ。」
と呆れられている。
「結婚前は性欲の塊だったけど、美咲が全部あの世に持っていっちまった。浮気はさせないって事かな。」
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