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第58話 恋人つなぎ

 次の日、玲奈が待ち構えていた。朝の掃除の時間。わざわざ隣の教室から入って来て、手を繋ごうとした。指を絡めて恋人つなぎ。 「片岡太郎は玲奈の恋人だから、 みんな取らないで。」  なんと勝手に恋人宣言したのだ。 「嫌だよ。おまえなんか知らないよ。 手を離せ!」  教室にいた男子たちが囃し立てた。 「太郎と玲奈が付き合ってんだって? もう、エッチしたのか?」  キャーキャー女子が騒ぐ。 まだ、中1だ。エッチってなんだよ。 言葉は知っているが、具体的な事は知らない。 女の子は進んでるなぁ、と感心してしまった。  放課後、体育館で一人、素振りをしている。 習いたての上下素振りを、気合を込めて声を出しながら行なった。 「いちっ、にい、さん!」 竹刀を振る。腹の中から声を出して100本、ぶっ倒れた。体育館の床に大の字になって倒れていると同級生の直樹が声をかけて来た。 「早いな。やる気満々だ。」 「ちげぇよ。雑念を払ってたの。 顧問が来る前に雑巾掛け、終わらせようぜ。」  立ち上がって準備室に行く。並んで競争で体育館の床の雑巾掛けをする。  部活が終わって、直樹と並んで歩いていた。 「おまえ、玲奈と付き合ってるってホントか? あいつ有名なビッチだぞ。」  太郎はウンザリした。 「もう、やったのか? 中1でチェリー卒業?」 「直樹黙れ、うるさい。俺は女嫌いなんだよ。」 「中1で女嫌いになるほど、経験してんのか⁈」 「少し離れろ。まだ、何もしてねえよ。 これからも何もしたくねぇ。」 「ふーん、そうか。 女の方が早く大人になるんだな。 俺たちはガキのままだ。」 「俺、おかしいのかな?女がキモいんだ。 嫌いなんだよ。」  直樹が言うには、太郎はファザーコンプレックス、とてつもなくファザコンなんだと。 「おまえんち、シンパパだろ。 シングルパパに大事に育てられたんだよ。 そろそろ父離れしなくちゃ,な。」  直樹は中学生とは思えない老成した見解を述べた。 「直樹、おまえ何才?113才くらいか?」 「いやぁ、耳年増って言うんだって。」

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