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第60話 あこがれ

 楽屋になっている控え室から、わらわらとウォーキングダンサーが出て来た。  ランウェイを歩く順番をリハーサルしているらしい。太郎は本番を見たことはない。  営業中は子供は出入り禁止だ。 「すごい。ほぼ裸だ。男の身体は綺麗だな。」  みんな鍛えて身体を磨いているから、歩いているだけでカッコいい。  顔見知りのグエンが寄ってきて 「タロちゃんも一緒にやるかい?」 「そんな小さいパンツだけで歩くの、恥ずかしいよ。勃ったりしないの?」 「エロい事、考えなければ大丈夫。」  笑いながら歩いて行ってしまった。 次々に半裸の男たちが歩いてくる。工夫を凝らした衣装だ。女性のTバック水着みたいなのを付けている人もいる。  大胸筋が大きくて、ブラジャーがちょうどいいみたい。 「太郎、早く帰りな。もう営業が始まるよ。」  美弦が怒っている。歩く時の音楽は、ダウンロードしてミックスした曲なのでピアノはいらない。美弦が暇そうにしている。 「よっ、まだいるのか? おまわりさんに捕まるぞ。」  笑いながら冗談を言っている零士が来た。 いつ見てもカッコいい、いや美しい人だ。 「うん、もう帰るよ。」  外に出るとビルの裏に回る。自転車が停めてある。停まっていたレクサスから陸が降りてきた。 「太郎か。学校帰りか?」  太郎は陸に会いたかった。陸の顔を見たら、すごく会いたかった事に気がついた。 「陸、これからお仕事?一人なんて珍しいね。 ヤクザはいつも、狙われているんでしょ。」 「そうだな、この所、不穏な空気もなかったんだよ。どこか、ドライブするか?」 「いいの?行きたい!」  陸のレクサスに乗り込んだ。 「カッコいい車だね。ヤクザって儲かるの?」 「ヤクザは儲からねぇよ。 おまえもやってみるか? 命の値段が安くて驚くぞ。」 「うん、やってみたい。背中に刺青も入れたい。」 「おいおい、徹司に殺される。」 「何でダメなの?」 「太郎は俺の表面しか見てないだろ。 裏の俺は汚い奴なんだ。やめとけ。 手が汚れ捲ってる。」  助手席に乗った太郎の頭を抱えて、キツいくちづけをして来た。

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