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第63話 古傷
堂島孝平はガキの頃の陸を知っている。当時、今から25年も前のこと。
ネグレクトの陸の実父は、孝平の組にゲソを入れていた。チンピラだが腕っぷしの強さで、何度か孝平の命を救っていた。アル中で向こうみずな性格から、孝平の掃除屋として重宝されていた。
殺人を何とも思わない。
数回服役していた。残忍な性格は孝平を喜ばせて、身近に置いてもらった。
酷薄な表情が夜職の女にモテた。その頃、場末のキャバ嬢だった母親が、借金で食い詰めて孝平の事務所に転がされていた。
ギャンブル依存症の女。その頃は、もう、ウリで稼いでも追いつかない借金で、闇金の後ろ盾だった、孝平の元に連れて来られた。
「おまえ、病気持ってねえだろうな?」
組事務所で輪姦(まわ)された。
ボロボロになった女を風呂場に連れて行き
「ちゃんと洗って来い。俺が抱いてやる。」
キャバ嬢だった女はそれなりに美人だった。
掃除屋の男も背が高く、シュッとしたいい男だったから女は惚れた。
掃除屋は竜と言った。女は里菜と言った。
美男美女だが、荒んで薄汚い二人は、ある意味似合いのカップルだった.愛などなかった。
里菜は借金から逃れるため、ヤクザの掃除屋に身体を差し出したのだ。
所帯を持ってすぐにガキが出来た。リクだ。そして妹のハナが生まれた。
両親は二人とも常識はずれで戸籍がなかったから、子供も未入籍だった。こんな世間から抜け落ちたような者たちが稀にいる。
無戸籍児とは、普通、暴力的な夫から逃げた後、妊娠に気づいた妻が、極秘裏に生む事で存在する。住所をたどられないために子供を入籍できないでいるのだ。
親が二人ともそろっていて、ネグレクトで未入籍,と言うのは珍しい。
この二人は生まれた子に対する意識が低かった。組の若いもんが見かねてオムツや必需品を届けたが、それも続かなかった。
その結果、虐待の末、妹のハナは死んだ。
リクはかろうじて、生き延びた。
竜も里菜も親戚からはそっぽを向かれ、頼る人がいなかった。
陸は施設で育った。見かねた会長の堂島鉄平が、枝の組を任せている安藤に子供を託した。
安藤はゲイのカップルで里子は受けられないが、甲斐の養子として籍を入れた。
安藤甲斐の養子のため、母役の稔と、陸は兄弟として入籍している。
両親と言ってもゲイカップルは婚姻出来ないので、変則的だが、何とか戸籍上の,家族になった。
会長の堂島鉄平が一目置いている安藤だったからこの子供を引き取らせたのだった.
安藤の両親は、陸を愛情深く大切に育ててくれた。
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