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第65話 会いたい

 太郎は陸に会いたくて店に来てしまった。徹司からは、行ってはいけない、と言われていたけど。  美弦が心配して徹司に言ったようだ。 「あの店は大人の場所なんだよ。 基本的に酒を出す店は、未成年はダメなんだよ。」 「あの、一階のジャズバーも?」 「ああ、深夜営業だからね。 酒も出すし。」 「ふーん、今まで、美弦がいるからいいかな、って思ってた。早い時間だし。ダメだったんだ。」  学校で事件があった。あったっていうか、俺が起こした。  学校帰ってくると、もう会いたくて仕方がない。陸。大人の雰囲気の場所。  学校なんてつまらない。青臭い子供がまとわりついてくる。  放課後、体育館で、素振りの準備をしていると、あの林玲奈がやって来た。 「ねえ、太郎、今日ウチおいでよ。 また、親がいないんだ。」 「いいよ、断る。」 「えー?この頃冷たいね。キスしたのに。 ステディじゃないんだ?」 「違うよ。おまえなんか特別じゃないよ。」 「他に特別な人がいるの? じゃあ、証拠見せてよ。」  陸の事がチラッと浮かんだ。 そばにいた直樹に無理やりキスをした。 突き飛ばされて、 「何すんだよ!いきなりやめろよ。」 「わっ、アンタたち、ホモ⁈ホモなんだ!」 囃し立てて行ってしまった。 「なんだ?あの女。」 見ると,真っ赤になった直樹が睨んでいる。 「悪い悪い、緊急避難だ。」 「俺は、ファーストキスには夢を持ってたんだぜ。台無しにしやがって。」  涙目で抗議してくる直樹がちょっと可愛く思えた。 「素振り、やろうぜ。」  竹刀を取った。  次の日、教室のホワイトボードに 「片岡太郎はホモだ。 男子、襲われないように気を付けろ!」 と、デッカく書かれていた。  キモい、とかみんなが書き込んでいた。 「男子、気を付けろ! って別におまえらなんか襲うわけないだろ。  俺にも選ぶ権利がある。  不細工、チビ、ダサいの、みんなお断り。」 「あーっ、自分がホモなのは否定しないのか?」

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