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第67話 拉致られる

 陸がエレベーターを使わず、階段を駆け上がってくると、太郎がいない。  竹刀の突き出たスポーツバッグが転がっていた。 「何だ?何があった?」  竹刀を置いて帰ってしまうわけが無い。太郎の自転車も倒れている。  見れば駐車場の出口に無理にUターンしたタイヤ痕がある。 (デカい車だ。シボレーかアルファードあたりだな。)  舎弟たちに声をかけて、吉田に連絡した。 「どうすんだよ。こんなガキ、拉致ってきて。」 「ああ、ここはT会の事務所があんだろ。 こいつは使えるかもしれない。身内だな。 子供だな。身代金って手もあるぜ。」  倒れている太郎を足で突いて起こした。 「おい、起きろよ。保護者に連絡しな。 金と引き換えに帰してやるよ。」  寂れた草ぼうぼうの分譲地を囲ったヤードに連れて来られたようだ。  太郎は状況を把握しようと周りを見た。 「何見てんだよ。」  頭を小突かれた。イキっているのは頭の悪そうなヤンキーだった。  他に運転してきた奴。頭が坊主のトライバルタトゥーの奴。ガタイのデカいロン毛野郎。 (全部で4人か。木剣があったら勝てるな。)  とっさに判断した。 「おまえ、スマホ持ってんだろ。出せよ。」 「あ、カバン置いてきた。 アレに入ってんのに。」 「なんだよ、おまえ何も持ってねぇの?」 「ちぇっ、使えねえな。 おまえ、あそこの誰かの知り合い?」 「誰かって?」 「なんで、あんなとこにいたのか?って聞いてんの。」 「おまえ、ヤクザもんの身内なの?」  ブルブルッ。スマホのマナーモーモードの震える音。 「テメェ,スマホ持ってんじゃん。 ふざけやがって。」  ロン毛に打たれた。 「ポケットに入ってたんだ。出ていい?」  スマホにかかってきたのは陸からだった。 前に番号を教えてあった。 「もしもし、陸?」 「おまえ、今どこにいるの?」

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