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第70話 バック

「誰がいるんだよ。おまえたちのバックに? 陸は腑に落ちないが太郎を連れて帰るのが先だ、と思った。 「このまま、固まったらおまえたちは身動き出来ない。自分で、膝から下を切り落とすか、、誰かに重機で、はつってもらうんだな。  このセメントが固まったら,もう何も出来ねぇよ。いつも人様に酷いことしてんだろ。  じゃあ、気にすんな。今度はおまえたちの番だ。」 「頼む、帰らないでくれ。 これ、何とかしてくれ!」 「じゃ、名前と住所、言いなさいよ。  中村、録音してやって。あ、動画にしよう。」 舎弟に言って、一人ずつ、名前と生年月日、そして住所を動画に撮った。 「フカシなんか、ぶっ込んでねえだろな。 わかったらあとが怖いよ。」 頭をブンブン振って頷きながら 「熱い!それに締め付けられる。 助けてくれ。」 「俺、小便したいのに動けねぇ。」 「喉が渇いて死にそうだ。」 「足が痒い。我慢出来ねぇ!」  四人がそれぞれ泣き言を言い出した。 「もうすぐ日が暮れる。 ここは真っ暗になるんだろう。 せいぜい頑張って、何とか脱出してくれ。」  帰ろうとする組員たちに 「待て待て、置いていくな。 助けろよ。」  ペットボトルの水を人数分置いた。手は使えるから。 「明日、ドリルを持って来てやるよ。 それで砕いてやろう。 一晩頭を冷やせよ。」  陸は冷たくレクサスを発進させた。 隣に座っている太郎は気が気じゃなかった。 「陸、あの人たちはどうなるの?」 「一晩ぐらい、どうって事ねえよ。」 「陸はやっぱり怖い人だね。」 「そうだ。ヤクザなんて、どこか人の心が壊れてんだよ。」 「でも、好きなんだ。陸に会いたかった。 そばにいたいよ。もう親の顔は見たくない。」  陸は太郎の顔を見た。この上なく愛しい顔だ。 こんな気持ちになったらダメだ、と陸もわかっている。 「今、中2か?ちょうどそう言う年頃だ。 ヤクザカッコイイか?あんな酷い事、平気でやるんだぞ。人でなしなんだ。  おまえが惚れる相手じゃねぇよ。 中学生なら、もっと美しい恋が待ってるだろ。」  陸は、なぜか必死に説得している滑稽な自分に呆れていた。 (美しい恋、だって。小っ恥ずかしい。)

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