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第71話 腐れヤクザ

 帰って来た。店の前に鬼の形相の徹司がいた。 レクサスを停めて降りてきた陸の胸倉を、徹司はいきなり掴んで締め上げた。  他の車からも男たちが降りてきて、徹司を囲んだ。  徹司の腕を振りほどいて陸は 「とんだ挨拶だな。 こっちは助け出してきたと言うのに。」 「腐れヤクザ!太郎にヤクザを見せるな!」 「徹司、ごめんなさい。 俺が勝手に来たんだよ。  そしたら変なヤンキーに連れてかれて、 陸が助けに来てくれたんだ。」 「何でこいつが太郎のスマホのGPS、知ってんだよ。もう関わるんじゃない。帰るぞ!」  カバンを拾って、徹司のアウディに乗せられた。帰ってくる間、徹司は一言も口を聞いてくれなかった。 「あの、ごめんなさい。徹司、怒ってるよね?」  家に着いた。乱暴に竹刀の入ったカバンを持ち上げた。ソファに座って、 「太郎,俺は生きた心地がしなかった。 あの店に近づくな、と言ったはずだぞ。  しかも訳のわからない輩に拉致されたって⁈」 「徹司、泣かないで。大好きだよ。」  抱きついて太郎も泣いてしまった。 肩を掴まれて 「そんなに陸が好きなのか?」 「徹司を好きなのと違うよ。 俺もよくわからないんだ。ただ会いたいの。 顔を見たいって思うの。声が聞きたいって。」  呆れたように太郎を見て徹司はハグしてくれた。 「ああ、切ない気持ちなら、俺も知ってる。 でも俺の好きな人は美咲だったから、この恋はハッピーエンドだったんだよ。」 「うん、知ってる。 俺の初恋はバッドエンド、だ。」  太郎のいじらしい顔を見て徹司はまた抱きしめた。 「もう、太郎は俺のマイボーイじゃないんだな。 どんなことがあっても、徹司はおまえの味方だよ。」 「ごめんね、いい息子じゃなくて。」 「ばかだな、世界一の息子だよ。」  自分の部屋に戻って太郎はスマホに隠し撮りした陸の顔を見た。 (やっぱり、陸は最高なんだ。 顔を見ただけでドキドキする。)  太郎は,初恋って窮屈なものだと思って、ため息が出た。 (怖い人なんかじゃないよ、陸。)

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