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第73話 含蓄に富む
「サムクックか、懐かしいな。」
今夜はジャズバーにサムクックがかかっている。
「いいなあ、サムクック。
チェンジイズゴナカム。
きっと変われるって応援してくれてる。」
「ほんと、この店は何でもあり、だな。」
「アンドモアだからね。」
今日はジュネの営業が終わって、零士と草太が来ている。美弦も遅れて来た。
「美弦に伴奏してもらって
零士に歌ってもらおうか?」
「草太も伴奏できるよ。」
バンマスも来た。
「いつも、遅い時間にお会いしますね。」
「バンマスはライブが終わってから来るんだよ。
今日はどこで?」
「ああ、新宿のライブハウスだ。
有名なホストクラブの近くさ。」
バンマスはライブのある日も必ずここに来る。
打ち上げはそこそこに帰ってくる。
「もう、年だからあまりはしゃげないんだ。」
「お疲れ!ラムですか?」
「ああ、デメララは無いんだよな。」
「デメララは独特の香りがいいんだよ。
スコッチウヰスキーのシングルモルトの樽で熟成される。英国ラムと言われる由縁だな。
アフリカのガイアナで作られる。」
「マスターの蘊蓄,出たー!」
「含蓄と言ってほしいね。」
遅い時間帯はジャズよりブルースが多くかかる。懐メロもあり、年齢層が高くなる。
教養のある大人の時間。
「サムクックとかレイチャールズとか、いいね。」
即席のライブが始まる。
「美弦、この頃、徹ちゃん見ないね。」
「ああ、引きこもりだ。大人の。
太郎が大きくなって心配事が増えたみたいだ。」
美弦も気になっていた。
太郎が親離れの年頃で徹司は寂しそうだった。
「あまり大きな声では言えないけど、ウチの店、ジュネって反社が経営してるでしょ。」
「でも、店自体は零士が仕切ってんだろ。
反社はあんまり関係無いんじゃないの?」
「うん、健全経営だよ。流星がいるし。」
「徹司が何か悩んでるんだ。
俺には相談も無いけど。」
「徹司自身のロマンスはないのか?
ずっと独り者で太郎一筋だったけど。
子供はやがて,巣立って行くんだ。
親も自立しないと。」
みんなが心配している。
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