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第75話 死刑囚

 陸の本当の父親、竜、は服役している。複数の殺人の前科に加えて、自分の子を虐待で死なせた保護責任者遺棄致死罪だった。  掃除屋だったから当然だ。平気で人を始末して来た。  判決は死刑。東京拘置所に収監されている。 母親の里菜は虐待の末、2才の娘を死なせた罪で有期刑。情状酌量無しの懲役18年。  陸が4才の時だったから、もうとっくに出て来ている。  今はどこにいるのか、全くわからない。 逆に母親が陸を探そうと思えば、児童施設から引き取った里親の安藤をたどることはできるだろう。 「俺の目の前に現れたら、ただじゃ、置かねえ。」  いつも陸は心に誓っている。死んだハナのためにも。  それでも陸の心にも一片の優しさは、ある。 今、零士と草太が飼っているアメリカンマスチフのマックスは、殺処分寸前に陸が助けて引き取った。陸は非道な人間ではない、といつも信じてくれた母親役の稔。父親役の甲斐と稔は、いつだって陸を信じてくれた。人の心を育ててくれた。 「おまえら、明日までにどこのチャイマか、どこの李か調べて事務所まで持ってこい。  ズラかったら関東一円どこにも居場所はねえぞ。」  しっかり約束させて帰した。よろよろと歩いて帰って行った。  いつもはデカい車で、自分もデカくなったような気で煽っている道路を、自分の足で踏みしめて帰らせた。  いつも陸の心の中には葛藤があった。 人にやさしくありたい。しかし、スジの通らない連中には、力、で叩きのめすしかなかった。  いろんな宗教がもっともらしく愛を説くけれど、陸の心には響かない。 (俺には俺の神がある。)  みんなで集まると気が大きくなるような集団が嫌いだ。  それでも誰かを愛したい。信じたい。 慕ってくれる舎弟たちがいる。彼らを守りたい。  陸は恵まれた体格と容姿、そして運動能力で、のしあがってきた。 (俺はおかしくなっちまった。 あんな子供に心を奪われている。 真っ直ぐに見つめてくる。好意をぶつけてくる。  女に惚れられたことは多い。女は依存しようとする。可愛いでしょ、守ってあげたいでしょ、と愛情を欲しがってくる。守られて当然、とすり寄ってくる。陸の経済力も当てにしてくる。  それの全部が煩わしい。  太郎の真っ直ぐな目だけが信じるに値する。

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