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第78話 危険
「太郎、一人で来てはいけないよ。
俺には悪い奴が寄ってくるんだよ。
こんな稼業だから。」
太郎は、陸に抱きついて
「うん、でも会いたかった。迷惑だった?」
何とも愛おしい。硬い身体を抱き寄せて
「背が伸びたな。カッコいいよ。
モテるだろ?」
「いやだ。モテないよ。俺、感じ悪いから。
近寄って来る娘に冷たくて有名だ。」
「はは、なら安心だ。」
「え、何が安心なの?」
「俺の太郎が誰かに取られないように、さ。」
陸は今まで自分の頭から抹殺していた生みの親の記憶を無理やり引き出されて動揺していた。尖った気持ちが、癒されていくのを感じていた。
嫌な思い出は封印していた。孝平伯父貴がそれを引き摺り出して目の前に晒した。
許しがたい思いだった。そんなささくれ立った心に温かい愛情を注いでくれた太郎。
こんな思いは、きっと伝わらないだろう。
「太郎は俺の安定剤だな。」
頭を抱えて頬を擦り寄せる。短い髪が心地よい。
「俺も陸みたいに髪,伸ばしてオールバックにしたいんだ。大人っぽく。ワックスで固める。」
「よし、スーツを買ってやろう。
カッコいい奴な。」
「早く大人になりたいよ。」
そろそろ帰らないと徹司にバレる。
今日はピアノのレッスンに来た事になっている。
一階のジャズバーに寄るって言ってある。バーのマスターの奥さんが先生だから。
「太郎のピアノ、カッコいいだろうな。」
「陸はどんな音楽が好きなの?」
「ブルースだ。シカゴブルース。全てのルーツみたいなブルースが好きだよ。
マディ・ウォーターズとか、
日本人なら断然、柳ジョージだ。」
「ふうん、俺探してみるよ。聞いてみる。
いつか、一緒に聞こう。」
話していると気持ちがほぐれて行く。
(こいつをそばに置きたい。いつもこうやって
二人で話したい。何でもいい。
太郎の声を聞いていたい。)
立ち上がって首に抱きついて来た。
「俺、背が伸びたのに陸はもっと大きいね。」
大きいのは背だけではない。広い肩幅ですっぽり包んで抱いてくれる。
(いつか、本当に抱いて欲しい。
陸とセックスしてみたい。)
「どうした?顔が赤いぞ。送って行こうか?」
「うん、レクサスに乗りたい。」
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