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第80話 李星輝
「おまえの店にちょっかい、かけろって言ったのは俺じゃねえよ。」
「そうだよな、兄弟。」
港の李星輝という男は、極道というわけでは無いが、陸とは五分の盃を交わした義兄弟だった。四分六でもない、同格の折半分けた兄弟分、というわけだ。
「半グレに俺の大事な人を拐われて、しめあげたら、港の李から言われたって吐いたんだよ。
「李なんて名前、腐るほどいるからな。
でも、港って言ったんだろ、
やっぱり俺じゃねえか?」
「近ごろゲーセンで溜まってるガキを使ってカツアゲとかしてる輩がいるんだよ。」
田舎だからゲーセンって言ってもそんなに多くは無い。港も胡散臭い連中が増えた。
今までの華人とは毛色の違う、軍人か、党員みたいな奴ら。人民軍か?
李星輝も気になっていた。
「俺んとこの身内じゃねえよ。
わかったら、連絡する。
ところでおまえ、ガキの面倒見てるんだって?」
李の言うのは漁船で密入国して来た子供たちの事のようだ。
「おまえの祖国はヒデェな。
臓器に値段付けて発表したんだろ。
キンペーさんがよ。」
「ああ、大陸は腐りきってるよ。
陸は目ェつけられねえようにな。」
陸は、李星輝とは別物の李、だとわかった。
(上等だ。ヤクザ舐めんな。
C国のみなさん、よ。)
陸の店でも外国人を雇ってはいるが、全員合法で働いている。陸はみんな仲間だ、と思っている。
(それにしても星輝が危惧していたのは、やっぱりヤクザがらみか。人身売買もありそうだ。)
李星輝の事務所では思いの外の歓待で、美味い中華家庭料理をたらふく食った。組の若いもんを5人ほど連れて行ったが、みんな喜んでいた。
「ご馳走様。これ、みんなおまえの嫁が作ったのが?若いもんが喜んでるよ。
挨拶したい。」
「おう、ケン出てこい。」
「こんにちは。」
李星輝の嫁はイケメンの飛び込み選手、原田健一郎だった。
「ああ、そうか!星輝もゲイだったな。」
「おまえのところの流星ってのも、すごいイケメンだってな。今度会いに行くからよ。」
陸は、太郎を思って胸が痛んだ。流星も陸の恋女房だが。
「何で俺たちは真っ当に女抱けねえのかな?」
「それ、言う?」
ワハハと笑い合った。それだけで通じるものがあった。
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