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第82話 一人の時間

 太郎の頭からいつも離れない思い。この前の騒ぎで陸の強さを目の当たりにした。 (空手かぁ。何やってもカッコいいなぁ。)  太郎は徹司と約束した事がある。 18才になるまでは、家で徹司とまじめに暮らす。 学校にも行き、自分の決めた事は続ける。  剣道も合気道もピアノも。 「太郎は高校や大学に行くんだろう? じゃあ、勉強するのが太郎の仕事だ。」 「うん、わかった。」  ピアノは毎日やらないと指が動かなくなる。サボるとすぐにわかってしまう。  美弦はストイックだ。ほとんど徹司と太郎の家に住み着いているようだが、レッスンはかかさない。この頃は歌の練習もしている。  歌謡曲。時々聞こえる演歌が違和感だ。  部屋で一人になると、太郎は陸を思う。 (今ごろ、何をしてるかな?)  陸と一緒にいるといつも刺激的だった。 いつもいろんな事が起こる。いろんな人と出会う。時には危険な事もあった。  でも、陸と一緒なら大丈夫って思える。ドキドキすることばかり。一緒だから心配いらない、と思わせてくれる。  陸は一緒にいる時、大きな身体で守ってくれる。ふとした瞬間、触れる皮膚感覚。  それとなく、甘えたい。 (今度会えたら抱きついて離さないんだ。) 心の中ではそう思うのに、会うと何も言えなくなる。ただじっと見つめるだけ。  大きな手で頭を撫でてくれる。 (でも、キスしたんだ。ホントにしたんだよ。)  そんな思い出をかき集めて、一つ一つ大切に胸にしまっておく。何度もキスの思い出を胸から取り出して眺めていると、思い出は曖昧になってしまう。 (ああ、忘れてしまう前にもう一度キスして欲しい。)  そんなふわふわしな気持ちで日々を過ごす。 (陸,会いたいよ。)  あの冷たい眼差しがフッと緩む時、陸は最高にいい顔をする。  一人、机に向かって、思い出を並べる。 優しくキスしてくれる顔。 喧嘩の時の鋭い目。 スマートなスーツ姿の陸。 バスローブから見えた胸の筋肉。胸にギュッと抱かれた事もあるんだ。  陸の匂い。タバコの微かな匂い。男らしい身体の匂い。  考えていると勃起してしまう。 (いけない事を考えてしまう。)  自己嫌悪に苛まれる、童貞の中2病。 (恥ずかしいことばかり考えてしまう。)

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