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第84話 破門

 数日後、孝平伯父貴がノコノコと訪ねて来た。 父親が確定死刑囚として収監されていると聞かされた。 「おまえに会いたがってるよ。 どうだ、会ってやらんか?」 「伯父貴、いい加減にしてくれ。 俺の親は安藤の甲斐と稔だけだ。」 「はぁ?両方とも男じゃねぇか。 あのオカマを母親だと言うのか、笑わせる。  ハナちゃんがおまえのホントの母親だよ。 自分の腹を痛めて生んだ、って言ってるよ。」 「そして殺したんだな。」  伯父貴は今日はハナと名乗る女を連れて来てはいなかった。目の前にいたら殺しかねない陸だった。  そこに会長の堂島鉄平が、駆け込んできた。 「兄貴!いや、アンタはもう兄貴でも何でもねぇ。たった今、縁を切ったぜ!」  盃を投げつけた。盃は床に当たって真っ二つに割れた。 「盃は極道の魂だぞ。魂の親から命をかけてもらったもんだ。」 「わかったふうな口を聞くな! もう、アンタは破門だ。親父の,藤尾さんの許可をもらって来た。二度と私の目の前に現れるな!」 「な、なにを!俺は兄貴だぞ。」 「所払いだ。関東をうろつくと必ず、配下のものがおまえを殺す。出ていけ!陸にも汚い顔見せるな!」  置床に飾ってあった「鬼神丸国重」を取り上げて抜き身を一閃、目の前に突き付けた。 「ひえーっ、兄殺しは重罪だぞっ!」  かすった額から一筋、血を滴らせて、孝平伯父貴は慌てて帰って行った。  肩で息をしている鉄平会長から、 日本刀の抜き身を受け取り,流星が両手で鞘に納めた。 「すごい切れ味ですね。 ふちが触れたのに 孝平伯父貴は気付いていなかった。」 「会長、落ち着いて。ソファに横になってください。」  流星が鉄平会長の血圧を測っている。 「今日という今日は、兄貴が許せなかった。 俺のベンツを若いもんに運転させて出ていくのが見えた。案の定、陸のところに来たな。」  取り急ぎ、若いもんのカイエンを運転させて、あとを追いかけて来たという。会長の片腕、山口さんが運転して来た。 「お疲れ様です! これがカイエンですか? ポルシェのSUV、カッコいいですね。」 「私はやっぱり、ベンツがいいな。 乗り心地がいい。」  軽口を叩きながらも、まだ、殺気だっていた。 「陸、スマンな。迷惑をかけた。 孝平はもう埋めちまってもいいんだが、一応兄なんだよ。」 「おやじ、いや会長、兄弟同士で殺し合いにならなくて良かったですよ。  こんな禍根を残すのも俺のせいです。 俺の親がみっともなくてすみません。」 「あの女はどうしたもんかな。 おまえの父親はいつ死刑が 執行されても仕方ない身だ。  そのままで行くしかない。 母親に少しは情があるか?」 「いや、今はそれどころじゃないんで。 港の華僑が困ってるようで。」

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