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第92話 ハナこと今関里菜
「ねえ、あんたうちの子、
どこへ連れてったの?」
あれから里菜は銀座の店を馘首(クビ)になり、場末の安キャバで働いていた。
客の秋吉に
「誰か、子供いないかなぁ。
いい仕事があるんだよ。
あんたの子供じゃもういい年だろ。
孫でもいいよ。誰か、10才くらいのガキ、
貸してくれないかなぁ。」
どこにでもいる小児性愛者。いい金になる、と言われ、同僚の子供を攫った。
傷害致死の前科がある里菜は、刑務所でも虐められた。
「子殺し、最低だな。」
ボスに目をつけられて散々酷いことをされた。
ム所には変な正義があった。親殺し、子殺し、はム所仲間から一番嫌われた。
娑婆に出て来ても、みんな金に困っていた。
シングルマザーが多い、場末の安キャバ。
少しの金でも子供を差し出す。
里菜にはわからない。
子供を育てながら頑張っている母親の気持ち。
子供は、わずらわしいだけだった。
里菜の2人いた子供のうち1人は死んでしまった。その子のせいで長い間、臭い飯を食わされた。
みんなガキなんかいらない、と思っているだろう。それで安易に同僚の子供を連れ出した。
帰って来たのは大怪我をした子供だった。病院に駆け込んだ。それで通報され警察にバレた。
警察内部では、この所の誘拐多発、が問題になっている。内定捜査が始まっていた。
源氏名をハナと名乗る今関里菜は、警察の目を掻い潜って上手く逃げていた。あの秋吉に助けられ、逃げまわる。
今度、逮捕されたら極刑もあり得る前科持ちだ。
「なんだよ、ガキなんてみんな足手まといで困ってたんじゃないのか?」
里菜は頭のどこかが足りないのだろう。
人間の情が理解できないようだ。人の痛みを慮る事が出来ないサイコパスなのか。
しばらくは、警察も動かなかった。水面下で圧力がかかっていたのかもしれない。
陸の所にいる子供たちは在留許可が出て真面目に学校に通っている。
秋吉には,あの顧客名簿の客たちから、注文が多い。
裏社会のネタは陸の耳にも入ってくる。
「叩き潰すか。
政治家が絡んで来ると厄介だな。」
零士は陸から
「秋吉って奴、知ってるか?」
と、聞かれて驚愕した。
「俺の元主治医だよ。
刑務所から出て来てるんだな。」
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