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第94話 ジュネ
秋吉を探すまでもなく、本人がジュネに来た。
零士が支配人をやっていると、どこからか聞きつけて来たようだ。
「いらっしゃいませ。」
一見の客だった。初老の上品な紳士、という雰囲気の男は、1人で乗り込んできた。
「零士君を呼んでくれんか?」
席に案内した蓮の手に折りたたんだ札を握らせた。戸惑う蓮に
「いいから、いいから。
キミ、イケメンだねぇ。」
零士が席に来た。
「先生、お久しぶりです。」
「ああ、零士、相変わらず美しいな。」
「あなたは相変わらず醜いですね。」
「ははは、毒舌は変わらないねぇ。」
零士はこの男のせいで暗黒の高校時代を過ごした。精神病に仕立て上げられ、まともに学校にいけなかった。
「服役していたのだよ。キミのせいだ。」
とんだ逆恨みだ。この医者は当時大学教授でもあり社会的地位は高かった。
人の弱みを握るのが上手い。人の秘密を暴き出すのもプロだ。医者の言う事は誰もが信用する。
零士の親も騙されていた。
「私は今でもキミがサチリアジスだと思っているよ。セックスの好きな魅力的な男。」
サチリアジスとは男性の色情症のことだ。そんな病気は滅多にない。男はみんな、欲求が昂じるとセックスを求める。寧ろそれが正常だ。
無理矢理病名をつけて零士を縛ろうとした、この男。
「今は恋人がいるのかい?
やはり、男なのだろうね。」
「先生の知ってる人間ですよ。
ずっと、隠し撮りしてたんでしょう?」
「ああ、あの時の可愛い感じの青年だね。
キミたちのセックスは綺麗で、可愛らしかった。
私がどんなに悔しかったか。」
この変態が出所してから何をしていたか、零士が知ったらただでは置かなかっただろう。
今は陸の秘密を嗅ぎつけて、その母親を誑し込んでいる。金でいう事を聞かせている。
陸が知ったら何をするかわからない。
「シャンパンを開けようじゃないか。
もっとホストを呼んでくれ。」
零士は、この男は危険だと誰も付けたくはない。裏に行ってホストたちに簡単に説明した。
そして、陸にも報告だ。
「陸、あの秋吉が来てるよ。
一連の事件の黒幕だろう?」
陸の顔色が変わった。孝平伯父貴を裏で操っているという男。
「何でここに来たんだ?」
零士が辛そうに
「俺の関わりです。」
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