95 / 198
第95話 秋吉
「いらっしゃいませ。」
陸が自ら挨拶に来た。普段、客の前に出る事は少ない。反社のオーナーが顔を出す事は普通にあり得ない。
陸の名刺を見て秋吉は驚いている。
ー株式会社 登龍興業
専務取締役 安藤陸
ボーイズバー ジュネ 代表ー
堅気の名刺だ。なんと株式会社なのだ。
「反社とは思えない、立派な肩書きだ。
たいしたもんだな。おふくろさんも喜ぶだろう。」
「母をご存知ですか?」
「ああ、もちろんだ。今関里菜さんとは懇意にしているよ。」
陸は、ギロリと睨んで
「母の名前は安藤稔ですよ。
何か勘違いなさってる。」
「いや、キミを生んだ本当のお母さんだよ。
里菜さん。仕事ではハナと名乗っているが、ね。
ウグッ。」
陸は秋吉の胸ぐらを掴んで締め上げた。
零士が止めに入る。
「先生、いい加減にしろよ。
何しに来たんだよ!」
「君たちが堂島孝平氏から盗んだ名簿を返してもらいたくてね。」
「あれは全部警察に渡した。警察に返してもらえ。」
秋吉は悪びれずフルートグラスを手に取っている。
「美味しいシャンパンだ。キミたちも飲みなさい。」
「あの人に言ってくれ。
母親面して俺の前をうろつくな、と。
アンタも、だ。」
陸の顔色が変わっている。酷薄な目をしている。一触即発。この場で殺しかねない。
こんな奴のために犯罪者になる必要は無い。
「手を汚すな。この人は人の神経を逆撫でするのが好きなんだ。」
「おかしいじゃないか。
録画してたのならデータは残ってるんだろう。
あんな名簿無くたってどうって事ないだろ。
みんな顔出しでバッチリ映ってんじゃねえのか?」
確かに秋吉が全部握っている。
「零士君にも会いたかったし,ね。冷たいなぁ。
久しぶりにキミの綺麗な身体も見たいんだよ。
ここはストリップもやってるんだろう。」
「零士は支配人だ。今はもうやらないよ。」
そこへ軽やかに薄衣をまとったアレックスがやって来た。人を食ったように秋吉の首に抱きついて膝に乗ってしまった。
「オオ、ボンジュール。ここの専属ストリッパーのアレックスよ。
ご所望なら僕が脱ぐよ。素敵なおじさま。」
ともだちにシェアしよう!

