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第98話 陸が迎えに

 今日はピアノと合気道がない日だ。太郎は部活が終わって帰ろうと出てきた。  校門を出るとレクサスが近付いて来てドアを開けた。 「ようっ、太郎、ドライブしよう。」  喜んで車に乗り込むところを同級生の直樹が見ていた。 (太郎、すごくカッコいい人のクルマに乗った。 ヤバいんじゃないの?)  車の窓を開けて 「直樹、ウチのオヤジには内緒、な。」  手を振って行ってしまった。  この所、陸は嫌な事が続いて、自分のために何かしたかった。いつも自分を抑制している。  極道は、「忍」の一字だ、と言われている。 息が詰まりそうな毎日で、たまには自分を甘やかしてやろう。そして太郎を思った。いつも太郎を思っているが。 (ああ、俺は太郎に会いたいんだ。)  自分の心に正直に、太郎の学校に来てしまった。レクサスはギリギリヤクザに見えないだろう。陸もスマートな普通のスーツで、ヤクザには見えないだろうと安心していた。  息を切らせて駆け込んできた太郎は助手席で陸を見つめている。 「どうしてこの時間に出て来るってわかったの?」 「太郎に会いたかったからさ。会えなかったら帰ろうと思ってた。」 「陸は、俺に会いたかったの?」  手を伸ばして頬を撫でる。 「会いたかったさ、毎日会いたいよ。」  いきなり告白のようになる。太郎はポケットから指輪を出して親指に嵌めた。 「いつも持ってるんだな。」 「うん、陸の事、思う時、出して見るんだ。」  まるで初めて付き合う中学生のカップルの会話だ。 「どこに行こうか?」 「うん、海が見たい。」 「寂れた海岸がいいな。」 「なんで寂れたところがいいの?」 「誰にも邪魔されないように、だ。」  九十九里の海岸の駐車場に車を停めた。オフシーズンで他に停まってる車はいない。  車の中で頭を抱えてキスされた。思わずじっと見つめてしまう。 「会いたかった。」  陸の手を探して繋ぐ。何度もキスを繰り返す。 「なんか邪魔だな、シフトレバーか。」  少し歩こう。手を繋いで波打ち際を歩く。 「靴濡らすなよ。」 「裸足になっちゃうよ。」  脱いだ靴を手に持って歩いた。 いつまでも、ずっと歩いていけるような気がした。

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