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第102話 傷モノ
陸は慌てて挿入をやめた。
太郎の後孔を見る。少し血が滲んでいる。拭き取ってゲンタマイシンの軟膏を塗る。
腕に抱き取って
「ごめんよ。最後までするつもりじゃなかったんだ。傷モノにしちまった。」
「平気だよ。心配しないで。」
「今日は、ここまでにしよう。」
手の中の小鳥。壊さないようにしていたのに、夢中になってしまった。
抱き上げて風呂に連れて行く。太郎は広めのジャグジーにそっと投げ込まれた。
「キャハハ、ひどいなぁ。このお風呂泡だらけだ。」
備え付けのバスバブルを陸が大量に入れてしまった。二人で子供のようにはしゃぎ回った。
大きなタオルで抱きとられて、また、陸の腕の中だ。
啄むようなキス。真っ直ぐに見つめて来る太郎。頭を抱えて
「綺麗な目だな。いつもそうやって見つめる。
俺は恥ずかしくなるよ。」
曇りのない瞳で全てを見透かされているようで、落ち着かなくなる。
その顔を胸に抱き取る。太郎は顎を掴まれて深いくちづけをもらう。
窓辺に座って抱き合う。ガラス越しに海を見ている。
「帰りたくねえな。朝になっちまった。
徹司に殺されるな。」
「あああ、ずっとこうして陸とくっ付いていたい。」
「俺もおまえを抱いていたいよ。」
ルームサービスで朝食をとった。
「あんまり、食べたくない。」
カフェオレを飲んでクロワッサンを齧った。
このホテル自慢の焼きたてパンだったが、二人とも喉を通らない。
「送って行くよ。」
陸の車に乗って家に帰った。
ドアがいきなり開いて、徹司が鬼の形相で出て来た。目が真っ赤だ。そばに美弦もいる。
「ヤクザに攫われたか。」
「すまん、俺のせいだ。俺が悪い。
太郎を叱らないでくれ。」
「この、ヤクザが!指でも詰めてもらおうか?」
「徹司、オレがわがまま言ったんだ。
帰りたくないって。」
太郎が縋って泣く。太郎の顔を見た。
(おまえは泣くほどこの男が好きなのか?)
美弦が太郎の手を取って
「中に入ろう。陸さんは帰ってくれ。」
振り向かなかった。
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