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第109話 接客

 岩橋の娘には、散々高いシャンパンを飲ませて、タクシーにぶち込んだ。泥酔して帰って行った。明日は二日酔いで苦しむだろう。  控え室に戻って零士を呼んだ。 「あの客、岩橋の娘だって? 学生だって言うけど、金、使って遊びまくってるんだ。こんな田舎まで来て何のつもりだか。」  何か著名人のパーティで陸を見かけたらしい。 零士は、岩橋が秋吉に利用され、上客になっているのを知っている。 「父親がペドフィリアなの、知っているのかな。」 「いや、知らないだろう。知ったら正気ではいられない。」 「ふんっ、哀れだな。」  陸は太郎の事を思った。 (どうしたら、会えるだろう。ピアノのレッスンには来てるんだよな。教室は近いんだろう?)  美弦に声をかけた。ピアノ演奏の休憩時間だった。 「美弦、徹ちゃんは元気か?」 「徹ちゃんなんて呼ばれたくないと思うよ。 陸の事は嫌いみたいだから。」 「そうだな、太郎を盗られたくねえよな。」  美弦に頼めないか?一瞬そんな事を思った。 「会いたいんだろ、太郎に。」  明日、ピアノレッスンの後に会わせてやる、と美弦が言った。 「徹ちゃんに悪いだろ。」 「タバコやめろよ。太郎連れて来てやるから。」  その夜、流星を激しく抱いた。 流星は聡明だ。陸の気持ちをわかっている。 (太郎の代わりか。それでもいいと思えるほど、俺は陸を愛している。)  次の日、陸はいつものスーツではなく、カジュアルな服装で駐車場にいた。 (ピアノレッスンが終わるのが、大体7時だったな。この後、美弦が送って行くんだが、美弦のステージは9時からだ。その時間を俺にくれるって。)  待ちきれない。タバコに手が出る。 (あ、やめたんだった。) 「陸っ!」  太郎が走って来た。 「太郎、また、背が伸びたか?」 「え?変わんないよ。175センチ。」  手を取る。手を繋ぐだけで幸せな気持ちになった。 (俺はティーンエイジャーか?)  太郎が首に抱きついてキスをねだる。 「可愛いな、会いたかったよ。」

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