111 / 198
第111話 冤罪 2
岩橋は自分の置かれている立場を理解していない。情報が漏れれば、自分の政治家生命も危うい。気を付けなければならないのに。
今まで何度も娘のわがままを聞いてきた。
「パパ、私、恥をかかされたの。変なチンピラヤクザに。捕まえてみんなの前で謝らせてよ。」
まさか、刑事事件になるとは思わなかった。
ちょっと脅かしてすずの言う事を聞かせればよかった。父親が出てくればビビって言うことを聞くだろう、と思っただけだ。父親が娘のために警察沙汰にした。
陸はしつこい取り調べを受けた。反社であり、父親が確定死刑囚なのだ。
「おまえみたいなのは社会のダニだ。
親が犯罪者なら息子も犯罪者。
不同意性交だって?
刑務所で最も馬鹿にされる罪状だ。
子殺しと同じくらい嫌われる。
このゴミ野郎!謝れ!社会に謝れよ。」
頭を小突かれた。机の上に顔面を叩き付けられる。鼻血が止まらない。
取調室にはカメラがあるはずだ。密室になるので録画されている。
髪の毛を掴んでもう一度顔を潰そうとした。手を払い身体を捻って腕を捻った。
「公務執行妨害、及び暴行罪が追加だ。
懲役だな。俺はヤクザ者が大嫌いなんだよ。」
取り調べの刑事は坂口と言った。
「坂口さん、アンタの顔はよく覚えておきますよ。」
吉田が大物弁護士を付けたはずだ。唯一、許された電話を吉田にかけた。
数時間後、陸は放免された。無罪だ。
弁護士が一流で、話が藤尾さんの耳に入ったらしい。影のフィクサー藤尾集蔵。
取り調べの刑事、坂口は平身低頭で謝りに来た。
「カメラの画像こちらで押収させてもらいます。」
弁護士が持って行った。
腫れ上がった陸の顔の写真も数枚撮った。
「鼻血の跡ですね。腫れてます。
髪を掴んだって?重罪ですね。
暴行罪で現行犯逮捕も出来ますよ。
民事じゃなくて刑事訴追で。」
周りの警察官が色めきたった。
「坂口さんはいつか、こうなると思ったよ。
取り調べが昭和だ。」
「そうそう、警察の恥。」
帰りは物凄く丁寧に送り出してくれた。
「吉田、ありがとな。」
「いや、今回は藤尾さんの紹介で、
弁護士の宝田さんがついてくれたんでスムーズに事が運んだんだよ。」
「宝田です。藤尾さんから連絡もらった時は焦りました。まだ、裏に何かありそうですね。
藤尾さんが出てきたって事は。」
「ええ、また、やっかいな事をお願いするかも知れません。」
ともだちにシェアしよう!

