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第111話 冤罪 2

 岩橋は自分の置かれている立場を理解していない。情報が漏れれば、自分の政治家生命も危うい。気を付けなければならないのに。  今まで何度も娘のわがままを聞いてきた。 「パパ、私、恥をかかされたの。変なチンピラヤクザに。捕まえてみんなの前で謝らせてよ。」  まさか、刑事事件になるとは思わなかった。 ちょっと脅かしてすずの言う事を聞かせればよかった。父親が出てくればビビって言うことを聞くだろう、と思っただけだ。父親が娘のために警察沙汰にした。  陸はしつこい取り調べを受けた。反社であり、父親が確定死刑囚なのだ。 「おまえみたいなのは社会のダニだ。 親が犯罪者なら息子も犯罪者。  不同意性交だって?  刑務所で最も馬鹿にされる罪状だ。 子殺しと同じくらい嫌われる。 このゴミ野郎!謝れ!社会に謝れよ。」  頭を小突かれた。机の上に顔面を叩き付けられる。鼻血が止まらない。  取調室にはカメラがあるはずだ。密室になるので録画されている。  髪の毛を掴んでもう一度顔を潰そうとした。手を払い身体を捻って腕を捻った。 「公務執行妨害、及び暴行罪が追加だ。 懲役だな。俺はヤクザ者が大嫌いなんだよ。」  取り調べの刑事は坂口と言った。 「坂口さん、アンタの顔はよく覚えておきますよ。」  吉田が大物弁護士を付けたはずだ。唯一、許された電話を吉田にかけた。  数時間後、陸は放免された。無罪だ。 弁護士が一流で、話が藤尾さんの耳に入ったらしい。影のフィクサー藤尾集蔵。  取り調べの刑事、坂口は平身低頭で謝りに来た。 「カメラの画像こちらで押収させてもらいます。」 弁護士が持って行った。 腫れ上がった陸の顔の写真も数枚撮った。 「鼻血の跡ですね。腫れてます。 髪を掴んだって?重罪ですね。 暴行罪で現行犯逮捕も出来ますよ。 民事じゃなくて刑事訴追で。」 周りの警察官が色めきたった。 「坂口さんはいつか、こうなると思ったよ。 取り調べが昭和だ。」 「そうそう、警察の恥。」  帰りは物凄く丁寧に送り出してくれた。 「吉田、ありがとな。」 「いや、今回は藤尾さんの紹介で、 弁護士の宝田さんがついてくれたんでスムーズに事が運んだんだよ。」 「宝田です。藤尾さんから連絡もらった時は焦りました。まだ、裏に何かありそうですね。  藤尾さんが出てきたって事は。」 「ええ、また、やっかいな事をお願いするかも知れません。」

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