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第117話 泳がせる

 逃走したC国人らしき男。仲間も数人いた。 陸は、事前にオークションの情報を掴んで潜り込んでいた。人海戦術でタワマンを見張っていたから、出入りする人間を一人残らずチェック出来ていた。顔と名前が繋がるのは、通名のC国人では難しいだろう。  顧客は、あの名簿に載っていた大物ばかりだった。外務大臣、岩橋剛助。財務大臣、竹迫平八。 元O知事、橋呉詰丸(はしくれつまる)、T県選出衆議院議員、水垂ヨシキ(みずたれよしき)、 元IAI(犬あっちいけ)テレビ、局アナ、大肥太(おおごえふとし)、B大法学部准教授、テレビコメンテーター玉梨幾三(たまなしいくぞう)、等々枚挙に暇がない、誰もが知っている有名人ばかりだった。日頃テレビで偉そうなことを言っている輩だった。  カメラに写っている顔写真も用意した。泳がせて正体を知りたいのはこっちだ。  港の李たちにも見てもらった。 「ああ、顔のわかる奴も数人いるよ。 こいつらはC国の党員だ。コンテナを見張ってた奴らで、俺たちが近づけなくされた。  中を確認するのが俺たちの仕事だったのに。 党員はタチが悪い。治外法権だから、と言われる。手が出せねえのを知ってるんだ。」 「梁大人にも報告しておきたい。 昔から日本のために働いてくれる華僑を巻き込みたくない。」  泳がせろ、と警察に言われたことも話した。 「名前と顔がわかるように調べてみるよ。 通名を使ってるから紛らわしいんだ。」  C国人は日本名を名乗っているものが多い。 いかに日本に溶け込んでいるか。  それでも故国では反日教育が徹底しているから 気を許すと危険だ。  保護した子供たちを預かることにした。あのジュネの寮になっているマンションだ。  今回は日本人の子供が3人だった。 買いたい客が多いのに、商品が少なかった。それでバカ高い料金で競られる。  陸は、日本人の子供に話を聞いた。警察から婦人警官が二人、事情聴取に来た。 「本当は児相(児童相談所)に引き渡すんですよ。何で安藤さんが引き取るんです?」  権利は無いので裏で手を回した。状況を知りたい。身元のわかる子供は帰してやりたい。  役所仕事は対応が遅すぎる。 「子供はなまものですよ。くさらせないように、ね。」  マンションには前からいた子供たちが歓迎してくれた。 陸は入れ墨坊主の山根を連れて来ていた。 「健斗、無事だったか?」 「父ちゃん!俺、酷い目にあったんだよ。」 泣きながら抱きついて来た。 「僕のパパは?」 他の子供が騒ぎ始める。

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