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第118話 泳がせる 2

 日本人の子供が不安な声を上げた。 「キミ、名前は?」 「ボク、たかなしはるき。」 「オレは、はやしこうた。」 「届が出てないようですね。 家の場所,わかる?  どうやって連れてこられたの?」  厄介な事になりそうだった。 「引き取りが来ないなら,今夜はここで預かりますよ。他の子もいるから。  子供の扱いに慣れてる人がいいでしょう。」  グエンの妹が子供に慣れていた。将来的、保育士になりたいと通信で勉強している。 「ホア、頼むよ。」  吉田がやって来た。警察からいろいろ聞いて、やっと戻ってきた。 「結局、元締めは逃げたんだな。 警察では明日から徹底的なチャイニーズマフィアの手入れが始まるって。  しかし顧客に関しては箝口令が敷かれたようだ。日本を揺るがす顔ぶれだったから。」  しかし、C国大使館から抗議が入った。 「内政干渉です。 写真に写っている人間の身元は教えられません。 国際問題にしたいですか?」  半ば脅しのような事になった。  山根健斗は無事に親が迎えに来たが、あとの二人は捜索願も出ていないという。  陸は胸が潰れる思いだった。 「ホア、今夜は子供たちと一緒に寝てやってくれ。心細いだろうから。」 「うん、わかったよ。社長,優しいね。」 肩を叩いて帰って来た。 「お帰り、陸。」  流星が心配そうにそばに来た。 「ああ、ひでぇもん見たよ。 檻に子供を入れて鎖で縛ってるんだ。 奴らは人間じゃねえ。」  肩に寄り添って優しく抱いてくれる。 黙ってそばにいてくれる。 (流星がいてくれる事で俺は正気を保てるんだな。鬼畜な世界に身を置いても。) 「ありがと、な。 おまえのおかげで人間でいられる。」 「大げさだな。陸。 心配する事ばかりだよ全く。」 「ああ,悪いな。ゆっくり風呂に入ろう。 今夜は流星を抱きたいぞ。」  チラッと太郎の顔が浮かんだ。 (あの港のコンテナの動画は、誰にも見せたくないな。嫌な気持ちになる。)

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